15周年のお茶会について

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    きたる11月11日(土)に、15周年を記念したシークレットなお茶会を開催します四葉のクローバー

    募集は、9月の半ばを予定しています。ぜひご参加くださいね。

     


    Cult ecstasy(チカ南最初の番外編)2003.12

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      『いちばんいいスーツを着てきてね』
      そう言ってにこりと笑ったチカの顔を思い出し、南はやや緊張気味にネクタイの結び目に手をやる。
      いちばんいいスーツ、と言われてあれこれ頭を悩ませ、この際だから新しく買おうかとも考えたが、ボーナス前の寒い懐具合を思い浮かべて、結局それはやめにした。その代わり、三年前初めてのボーナスで買った織り地の凝ったスーツにシャツ、それに発色のいい黄色のシルクタイを締めてきた。
      もちろん、なにも持たずに彼の部屋を訪ねるのは気が引けたから、ちょっと奮発して花束を買った。
      男の自分が、同じ男に花を買うなんて生まれて初めてだ。そう思うと可笑しくて、六本木駅から東京タワーを目指して歩くあいだ、ずっとくすくす笑いが止まらなかった。
      チカのために買ったのは、花屋の軒先でひときわ美しい色を誇っていた、黄色の薔薇だ。
      彼の銀髪に赤の薔薇は派手すぎるし、ピンクは可愛すぎる。白薔薇の清楚なイメージもやっぱりなんだか違う気がした。
      ――この黄色、俺のネクタイとちょっと似た色かも。
      十一月下旬の寒さにも負けず、店先で明るい色をかがやかせるたくさんの花に微笑み、豪勢な花束をつくってもらうことにした。
      薔薇をメインにしてもらったら、予想を上回る値段を言われてびっくりしたが、センスのいいチカになにか贈り物をしようと考えたとき、新鮮な花がいちばんしっくりきたのだ。服やアクセサリー、本に音楽CD。形に残るものを贈ってもいいけれど、印象そのものが強くあざかやなチカには、ぱっと目を惹き、いま一瞬を楽しませてくれるものが似合うと思う。
      シダと黄色の薔薇を組み合わせた、シンプルだけど華やかな花束を抱えて夜の街を歩き、南はいま、チカの部屋の前に立っていた。
      チャイムを鳴らすと同時に、扉の裏で待ち構えていたように彼が飛び出てきたのには噴き出してしまった。
      「こんばんは、チカ」
      「こんばんは、センちゃん」
      互いに顔を見合わせ、照れくささにちょっと笑った。
      「これ、おまえに」
      透明なセロファンと薄緑の紙で包まれた花束を押しつけると、チカがぱっと顔をかがやかせる。
      「僕に? ありがとう、こんなに綺麗な花をもらったのは生まれて初めてだよ。さ、入って。料理はもうできてるんだ」
      「悪かったな、明日発つのにわざわざつくらせちゃって」
      「いいんだよ。きみに食べてもらいたかったんだから。僕の得意なドイツ料理、気に入ってもらえると嬉しいんだけど。すぐ食べる?」
      「食べる食べる。めちゃくちゃ腹減ってるんだ。おまえがつくってくれるっていうから、昼飯も抑えめにした」
      緑のリボンを垂らした薔薇を抱え、くすりと横顔で笑いながら先に歩き出したチカが、「あ」と振り向く。
      「今日は靴を脱がなくてもいいよ。そのまま来て」
      「でも、……床が汚れるじゃないか」
      「大丈夫。明日、僕が出ていったあとに清掃業者が入るから。それにせっかくスーツを着てきてもらったのに足下が靴下じゃ決まらないでしょう」
      それもそうか、と頷いたものの、ぴかぴかに磨いた大理石の床を汚すのはやはり悪い気がする。
      そろそろとおぼつかない足取りでチカを追い、広いリビングに向かった。
      大きく採った窓のシェードカーテンはすべて巻き上げられており、赤くかがやく東京タワーの胴体が見える。
      相変わらず派手な光景だなとかすかにため息をつき、コートの袖を落としてチカに手渡した。
      案内されるままに席についた八人掛けのテーブルでは、誰がこんなに食べるんだというほどの大量の料理が用意されていた。
      しかも、いまさっきできあがったばかりらしい、ほかほかした湯気つきで。
      コートをクロークにかけて戻ってきたチカが、ジャケットの袖を少しまくってテーブルの隅に置いたアイスバケツからワインボトルを取り上げる。
      「まずはドイツのワインで乾杯といこうか。あっちのワインはたいてい甘口なんだけど、これはほんとうにおいしいんだよ。フランス産のワインにも負けないぐらい」
      ポン、と大きな音を立ててコルクを抜く姿が様になっている。
      今日のチカはホワイトシルバーのシングルスーツに、淡い水色のネクタイを会わせている。足の長さをきわだたせるパンツと、ひとつの傷もないウイングチップの靴に一瞬見とれた。
      「チカでもスーツを着ることがあるんだな」
      「今日は特別。だってきみとのディナーだしね。……明日からしばらく会えないんだから、少しでも僕のいいところを覚えておいてほしくて、朝からなにを着ようか迷っちゃったよ」
      「おまえはよ」
      彼の容姿にまったくそぐわない健気な言葉に、苦笑いしてしまう。

       


      プラチナシルバーの短髪と端正な顔立ちだけでも目を惹くチカは、パールブルーという難しい色合いのネクタイをさりげなく締め、モデルを仕事としていてもおかしくないと思う。
      なのに、彼のほんとうの仕事は爐桓膺様有瓩覆里世辰拭
      六本木の街で彼を知らないひとはいないどころか、ドイツと日本を股にかけた伝説のSMプレイヤーとしても名高いらしい。これを最初に聞いたとき、なんてバカバカしいんだとげっそりしたことがいまでは懐かしく思えるのだから、不思議なものである。
      同じ高校の柔道部でともに汗を流していた時代から想われていた南としては、チカの性癖が受け入れられるかどうかでひどく悩んだ時期もあったが、いざ始まってしまったら思いきり引きずられ、気付けば目が離せなくなっていた。
      なにも、彼のテクニックだけに惚れたわけじゃない。もともとのチカが持つ性格のやわらかさや、確かさを信頼していたからこそ、友人という枠を越えて好きになることができたのだ。
      「さて、今日の料理を少し説明しようか。サラダはマウルタッシェンにソースをかけたもので」
      「マウルタッシェン?」
      「ラビオリの一種だよ。歯ごたえが抜群なんだ。それとメインは鹿肉のきのこソース、レッドカレントのジャム添えに」
      「レッドカレント?」
      「ラズベリーの一種。とても綺麗な赤い実なんだよ。鹿肉も新鮮だから、おいしいと思うよ」
      日本では聞き慣れない食材をいちいち訊ねる南に、隣に座ったチカが丁寧に説明してくれる。
      彩りあざやかな前菜から旨そうな湯気をたてる肉料理、魚料理にパンまで、コースの流れを無視してずらりと並んだ料理を説明し終えてから、彼が笑いかけてきた。
      「ほんとうはひとつひとつ出していくのが正しいんだけど、そうやってるとセンちゃんと離れてる時間が長くなっちゃうから、ちょっとズルして全部出させていただきました」
      「いいよ、ガンガン食べるから」
      こういう気遣いがチカの可愛いところだと思うと、嬉しくてこそばゆい。
      「デザートには、一足早いけどクリスマス用につくられる蜂蜜入りのレープクーヘンっていうクッキーをつくったんだ。やわらかくて癖になる味なんだよ」
      「どれもこれも旨そう。早速食べていいか?」」
      「はい、どうぞ」
      乾杯、とグラスを触れ合わせたあと、南は空腹に任せて一気に食べ始めた。その勢いたるや、チカが料理を皿に取り分けてくれるのが追いつかないほどで、しまいには大笑いされてしまった。
      「見事な食べっぷりだねえ。見てて惚れ惚れするよ」
      「だって旨いもん、どれも。……あ、その肉、もうちょっともらっていいか?」
      「どうぞどうぞ」
      食べ始めると止まらないのが南の昔からの癖で、気が付いたらおおかたの皿を空にしていた。
      「……食い過ぎた……」
      せり上がってくる胃を押さえて椅子にもたれると、のんびりとワインを呑んでいたチカがぷっと噴き出す。
      「なんか、学生時代のセンちゃんを思い出すね。これだけ気持ちよく平らげてもらえれば、こっちも嬉しいよ。腕を振るった甲斐がある」
      「ごめん、なんか勢いがついちゃってさ」
      部屋に来るやいなや、がっついてしまった自分が恥ずかしくて、南は、へへ、と笑いながら頭をかく。
      「じゃ、デザートのクッキーもどうぞ」
      「ん、いただきます」
      熱いコーヒーを入れてもらい、デザートは別腹とばかりに皿に盛られたクッキーに手を伸ばしたときだった。
      「ね、センちゃん。こっちに来てよ」
      顔をのぞき込んでくる男に腕を掴まれ、「え?」と問い返した拍子に引っ張られた。
      「お――おい、チカ……!」
      ぐらりと身体のバランスを崩し、とっさにしがみついてしまう。
      「僕の膝に乗って食べて」
      「膝に乗ってって……」
      呆気に取られてしまった。彼の膝の上に自分が乗ったらどうなるか。チカも自分も慎重百八十センチを超えており、柔道部に所属していただけあって体格もいい。そんな男が男の膝に座るなんて、ギャグ以外なにものでもないではないか。
      「いいじゃない。ここにはきみと僕しかいないんだよ。恥ずかしがることないって。ほら、座って座って」
      ぽんぽんと自分の膝を叩くチカに笑顔でうながされ、いやだと断れるものならそうしたい。けれど、いまさっき、おいしい料理の数々を食べさせてもらったことを考えれば、冷たい態度を取るわけにもいかぬ。
      チカのこういう開けっぴろげな性格には驚かされっぱなしだ。いつかは慣れられるかもしれないと思っていたが、なかなかそうはいかないらしい。だいたい、彼の要求はいつだってこっちの予想を遥かに超えているのだ。
      恨めしげにチカを見つめ、南はため息をつく。
      「……俺、それなりに重いんだぞ」
      「知ってるよ。だって男だもんね」
      まったく動じていない男に苦笑し、南は、「それじゃ、……失礼します」と頭を下げてそっと彼の膝に座った。
      その瞬間、ぐっと腰を掴まれ、羽交い締めにされた。
      「いきなり抱きつくなよ!」
      「いいからいいから、ほら、口を開けて」
      「まさか、……この格好でクッキーを食べさせるつもりか?」
      「もちろん、そのつもり」
      スーツの生地が擦れる音に振り返り、南は首をねじって自分を背後から抱き締める男をまじまじと見つめた。
      短く刈った髪は根元まで銀色に染まり、きらきらしている。右耳に一粒ダイヤのピアスをかがやかせ、はっと息を呑むほど切れ込みの鋭いまなざしに甘やかな色気を漂わせるチカは、自分にはもったいないようないい男だ。
      どうしてこれほどの男が、自分のようななんの取り柄もない人間を相手にするのだろう。改めて考えてみると、不思議でたまらない。
      「あーんしてごらん」
      「赤ちゃんか、俺は」
      じわじわと忍び寄る羞恥心に耳まで赤くし、だけど南は結局根負けしておずおずと口を開いた。
      しっとりしたクッキーは香ばしい蜂蜜がふんだんに混ぜ込まれていて、確かに癖になりそうな味わいだ。
      「おいしい?」
      「うん……」
      チカの指で運ばれるクッキーを咀嚼し、無意識に甘い味のする指もぺろりと舐めてしまう。
      「ねえ、明日から一か月も離れるなんてセンちゃんは寂しくない?」
      「寂しいよ」
      「ほんとうに? でも、いまクッキーをむしゃむしゃ食べる元気はあるんだね」
      「だっておまえが食べさせてんだろ。それにこれ、旨いしさ……」
      がっしりした両腿に座り、触れ合っている場所から伝わる熱に気付くまいと必死になった。
      チカは明日、ドイツに帰国する。とはいっても、一か月後には戻ってくる予定で、その後は日本の大学に通うらしい。
      僕が戻ってきたら一緒に住もう、と言われたことにも了承している。
      キスもして、セックスもした。たぶん、自分たちは間違いなく恋人同士なのだろうけれど、男同士という事実を前にして、それを堂々と認めるにはまだいくらか勇気が足りない。
      だけど、誰も見ていないここでなら、もう少し甘い雰囲気に張ってもいいんじゃないだろうかと思う面もある。そうすればきっとチカも喜ぶだろうと思うのだが、恋に疎い自分としては、どうすれば甘いムードになるのか考えれば考えるほどわからなくなってしまうのだ。
      手慣れているチカに不器用に迫り、もしも笑われてしまったらと思うと、怖くてできない。
      「ね、センちゃん、僕にも食べさせて」
      腰を掴む力が強くなる。間近で微笑まれ、南はしばし思案したのち、ようやく決心して一枚のクッキーをくちびるに挟み、顔を近づけた。
      まるでキスの前触れのような雰囲気に、チカが顔をほころばせ、綺麗なカーブを描くくちびるをそっと開く。
      視線を合わせたまま、口移しする。
      ふたりのあいだでくしゃっとやわらかく割れる音が響き、舌なめずりする気配が続いた。
      「もっと」
      ねだられて、もう一枚ちいさくてねっとりした甘さのあるクッキーをくちびるに挟んで向き直った。
      粉がついたくちびるを舌先で舐め取っているチカを見ていると、どうにもいたたまれなくなってきた。
      前に、チカに抱かれてからずっとそうだ。それまで一度も聞いたことのないような言葉で責めてくる彼に少しでも触れられると、その部分がひどく熱くなり、疼いてしまう。
      いまもそうだ。目と目を合わせているだけでしたくなってきて、どうしようもない。
      なにも言わずにバリバリとクッキーを噛み砕き、ごくんと飲み込む。そんな自分をチカは目を丸くして見ていた。
      きっと、変に思われている。
      どうしたの、と聞かれる前に彼のうなじを掴んでのけぞらせ、ひと息にくちづけた。
      「……ッん……」
      ただくちびるの表面を重ねているだけのキスに、先に吐息を漏らしたのは南のほうだった。濃厚な蜂蜜をまぶしたようなチカのくちびるは甘くて、重ねているだけじゃ物足りない。
      勢いあまってぺろりと舐めると、くすくすと笑う声が聞こえてきた。
      「どうしたの。今日はきみのほうが積極的だね」
      「……だめか? なんかさ、このあいだチカとしてから俺、ちょっと変なんだよ。いまもこうしているだけで……」
      「したくなる? 我慢がきかなくて可愛いね、センちゃんは。……もっとおかしくなりなよ」
      ぎゅっとしがみつき、熱い頬をチカの首筋に擦りつけた。鼓膜にすべり込んでくる声は独特のなめらかさを備えていて、身体の奥深いところに火を点けるようだった。
      鼻がぶつからないようにと顔を傾げ、ついばむようなキスを繰り返し繰り返し。弾力ある表面がしっとりと濡れてくる頃には、早くも南自身が昂まっていた。
      「もっとキスして、センちゃん。僕がだめになるぐらい」
      「……ん、んっ……」
      以前教わったとおり、舌先を少し突き出してチカとと絡ませると、口の端から唾液があふれる。それをチカがちゅっと音を立てて舐め、一層きつく舌を絡めてきた。
      舌先を甘く吸われ、中央のやわらかな場所をじっくりと攻め込まれると、指先がだんだんと痺れてくる。
      「……なあ、俺、ちょっと、なんか、……あの……」
      視界がぶれて潤みだし、息もはあはあと途切れるのは、いささか自分でもおかしいと思う。確かにチカのキスは魔法に似ていて、いとも簡単にこの自分を陥落させるけれど、いくらなんでも感じすぎではないだろうか。
      「いいな、その顔。センちゃんって男らしい顔立ちなのに、こうしているときは目元が色っぽくてたまらないんだよね。ねえ、乳首、弄ってあげようか」
      「ぅ、……ん、……」
      見上げてくるチカに頷く自分が、別人に思えた。だけど、身体のあちこちに火花が散り、どうしようもなくなっているのも間違いなく自分だ。

       


      ネクタイを軽くゆるめ、ボタンをはずしていくチカの指先をぼうっと見つめる。するすると動く彼の長い指で、これからなにをされるのかと考えただけで腰が揺れてしまう。
      「たくさん感じて。僕の前でだけ淫乱になっちゃいなよ。たくさん喘いで泣くきみが見たいんだよ」
      中途半端にシャツをはだけた隙間から忍んでくる指にこりっと乳首をつままれ、つい声をあげてしまった。
      「チカ……!」
      「もう硬くなってる。ほら、自分でも見てごらんよ。センちゃんのここ、赤くふっくらして――すごくいやらしい」
      いやらしいのはおまえの声のほうだと言いたかったが、いまの自分にできることと言えば、彼に言われるまま、淫らなな指先に悶える身体を見下ろすことだけだ。
      「ちょ、っと……待て、んなところ……弄るなって……」
      熟れる粒を押し転がすチカは楽しげな顔をしていて、こっちの言うことをまるで聞いちゃいない。粟立つ乳首の周囲をぐるりと何度もなぞり、引っ張ったりつまんだりしてから、丁寧に揉み込んでくる。
      「あ――っん、ンッ……」
      痛いぐらいに引っ張られたあと、熱い舌を這わされ、涙がにじんできた。
      「こういうふうにしてたら、そのうちここを噛まれるだけでも射精できるようになるよ」
      弄られ続けて腫れぼったくなる乳首を甘く噛み、ちろちろと時間をかけて舐められてから、もう一度ぎゅっと噛まれる。そんなことを繰り返されたら、そこだけがひどく敏感になってきて、吐息がかかるだけでも感じてしまう。
      スラックスの前が窮屈になっていることに南は悶え、なんとか熱を逃そうと懸命になった。
      「触ってって言えばいいのに」
      ちいさく笑うチカがベルトをゆるめ、ジッパーを下ろしてくる。
      トランクスの上から遠慮なしに掴まれたときは、あっけなくいってしまいそうだった。
      いくら相手がチカでも、こんなに急激に感じるのはおかしいと頭の隅で思ったところで、冷静になれるわけがない。
      いまやシャツは臍のあたりまではだけている。ネクタイもねじれて首に引っかかり、ベルトも中途半端に抜かれている。トランクスの縁からのぞく、先走りで濡れる亀頭を見下ろし、南は弱々しい声で頼んだ。
      「触って……ください……」
      「いいよ。今夜は何度でもいかせてあげるよ。僕がいないあいだ、きみが浮気しないようにね」
      チカの強い視線を真っ向から受け止め、固唾を呑んだ次の瞬間には、ぬちゅ、くちゅっと耳をふさぎたくなるような音を響かせて亀頭から竿にかけて扱かれた。
      「あ、――あ、あぁ……」
      「ほんとうにはしたないなぁ、センちゃんは……。ちょっと触ったぐらいで筋がふくれてるし、ガチガチになっちゃってる。きみの先走りで僕の手がもうべたべただよ」
      「ご、めん、でも……チカ、……あ、っ」
      そう言うあいだにも長い指は器用に動き、先端の割れ目をくすぐるり、エラの周囲をくるくるとなぞったあとは陰嚢にまで忍んできた。
      「ここもさ、丁寧に揉むと気が違っちゃうぐらい気持ちいいんだよ。してほしいでしょ?」
      「……ん……」
      夢中で頷くと、いきなりテーブルの上に押し倒され、チカが覆い被さってくる。ガシャン、と硬い音がするのは、きっと皿と皿がぶつかったせいだろう。フォークやナイフが次々に床に落ちる音も聞こえる。
      白いテーブルクロスを掴み、南は必死に身体をよじらせた。スラックスとトランクスを一緒くたに引っ剥がされ、両足を高々と抱え上げられる。
      「……やだ、って……!」
      あられもない格好に痺れていた理性が揺れ、あまりの恥ずかしさに両腕を交差して顔を覆った。
      「ねえ、千宗。きみのここ、もうひくついているのはどうしてかな。僕はまだ触ってもないし、舐めてもないんだよ」
      「そういうこと、……言うなよ……」
      「どうして?」
      不思議そうに笑う声が悔しいかぎりだ。乳首を弄られて喘ぐ自分が悪いにしても、普段は誰にも見せない場所を明るい部屋であらわにされているのだから、恥ずかしいと感じるのはしごく当たり前のことだ。
      「恥ずかしいんだよ……!」
      「あのね、僕はきみを辱めたいからこうしてるんだけど」
      天井の灯りを受けて笑顔が翳るチカにきっぱり言われ、ぐうの音も出なかった。ついで、窄まりに吐息がかかり、慎重に舌でつつかれる。
      尖った舌先がぬるりと挿ってきたとたん、壊滅寸前だった理性が跡形もなく崩壊した。
      「うぁっ……チカ、ッ――あぁ、あ……っ、ン――……」
      チカの舌は執拗にそこを舐り、やわらかく潤ませる。すすり込む音が聞こえたときには、さすがに羞恥心に耐えきれず奥歯を噛み締めた。
      指が一本、くねりながら挿ってくる。唾液を助けに、そこかしこに触れながらじっくりと探ってくる巧みな指遣いに喘ぎ、のしかかってくる男にしがみついた。
      「……僕もちょっと我慢できないな。一度、していい?」
      「ぁ、……ッ」
      引きずり起こされ、今度は床に四つん這いにさせられた。剥き出しの尻を掴まれ、高く持ち上げられてしまうと抵抗しようにもなにもできない。濡れそぼった窄まりに硬いものがあてがわれ、痺れるくちびるでチカの名前を呼ぶことしかできなかった。
      「犬みたいな格好がいいね。……犯しているみたいですごくそそられる。挿れてって言って、千宗。僕が欲しいんでしょう?」
      「……う……」
      振り乱した髪を床に擦りつけ、南はようよう声を絞り出す。して欲しいのか、して欲しくないのか、もうよくわからない。チカのそれは、完全に勃起した状態になると相当の大きさで、巨根といってもおかしくないサイズだ。長さも十分で、日本人らしい硬さもある。持続力は言わずもがな、こんなもので一度やられてしまえば誰でもおかしくなるに違いない。
      南とて、学生時代に身体を鍛えたといってもセックス専用に開発されたわけではないのだから、チカを受け入れるのは正直つらく、挿ってくる最初は痛くて泣ける。だけど、それを堪えて最奥まで貫かれると、それこそ気が狂うような快感が味わえるのだ。
      「……、れて、ください……」
      そう言えと命じられたわけでもないのに、敬語遣いになった南の腰を強く掴むチカが低く笑い出す。
      「力、抜いて」
      耳元で声が聞こえたのと同時に、ぐぅっと熱の塊が押し挿ってきた。
      「――ぁ……っあぁッ……!」
      ひくつく襞をゆっくり擦り、熱を帯びた肉棒が時間をかけて挿り込んでくる。
      「ここの使い方を……教えてあげるよ」
      謎めいた言葉を聞き返す暇もなく、一気に奥まで貫かれてびくりと全身を引きつらせた。今度こそ、ほんとうに涙があふれ出す。
      「あ、あ、あぁっ」
      チカが腰を引くたび、ぐちゅ、ぬちゅっと淫らな音が響いた。張り出したエラが入口に引っかかり、南に新たな痛みを刻み込む。それと、到底無視することのできない快感も。
      抉られながら肩を強く噛まれ、低く呻いた。あとで鏡を見たら、チカの尖った犬歯の痕がくっきり残っているのがわかるはずだ。
      場所を変えて繰り返し噛まれるうちに痛みと快感が混在した衝動に襲われ、たまらずに達してしまった。
      くずおれる背中に、まだ達していないチカが覆い被さってくる。
      「ごめん、俺、……床、汚して……」
      「もっと汚しなよ」
      そう言ったチカがほんの少し腰を揺らすと、じわりとした熱が奥で広がる。
      何度でもいかせてあげるよ、という言葉に嘘はないらしい。あと何度いけば解放してもらえるのは、快感に踊らされた意識では想像もつかなかった。
      「あのね……千宗をほんとうに僕の奴隷として鍛えていいなら、この床も全部舐めさせるよ。僕のものも綺麗に舐めてもらう。そのぶん、僕はきみが別人になるぐらいの快感を与えてあげる。……ねえ、ドイツから帰ってきたら、きみを本格的に調教していい? 僕だけの可愛い犬にしてもいい?」
      この言葉にはさしもの南も青ざめ、慌てて身体を離した。
      「だめ、それは絶対にだめだ」
      「そっか……」
      チカはしゅんとうなだれるが、それは表向きのこと。手早くネクタイをむしり取り、スーツを脱ぎ捨てる。床に散らばった皿に一瞥もくれないところがお見事だ。
      「まあ、それは追々相談していくとして、お風呂に入ろう。ね」
      「ちょっと、おいチカ……待てよ、待てったら!」
      達したばかりで力の入らない身体からスーツが剥ぎ取られ、チカが意気揚々と腕を引っ張り上げてくる。
      彼の凄まじさは、独特の言葉遣いや巨根というだけではない。言葉を失するほどの絶倫というオプションまでついたら、できすぎもいいところだ。
      こっちが気を失ってもまだ延々とやり続けるだろうその熱意には、目の前が真っ暗になりそうだった。

       


      「っもう……だめだって……っ」
      「いきなよ。何度もいけば、もっとよくなるから」
      円形のバスタブには、今夜も薔薇の花びらが浮いていた。ライオンも口を開けてザバザバとお湯をそそいでいる。南はチカに正面からまたがり、深々と挿し貫かれていた。逞しい胸に手をあて、背骨がぽきんと折れるぐらいにのけぞってもチカは許してくれず、さらに奥へ、奥へと突き上げてくる。
      透明のピンクの湯に目をこらせば、自分とチカがつながっているところがはっきり見えた。割れた腹筋の下に硬い毛が生え、いまは南のそれと混じっている。
      ぬるめのお湯だからのぼせることはないだろうが、噎せ返るような甘い香りに酔いそうだ。きっと、特別のローズオイルを垂らしているのだろう。
      チカの肌はきめ細かく、きつく爪をたてるのがはばかられる。だけど、熱く湿る襞を激しく擦られる感触にじっとしていることができなくて、結局しがみついてしまうのだ。
      肌を食い破るほどに強く抱きつくと、チカは嬉しいらしい。微笑んで、つながったまま乳首を噛んでくる。
      「千宗の身体はもともと感度がいいけど、噛むともっと感じるんだね」
      「うそ、だ……そんなのは……」
      「嘘じゃないよ。だってほら、さっきからずっと勃ちっぱなしだよ」
      一度抜かれて、あ、と声をあげかけた矢先に、バスタブの縁に座らされた。
      「噛み癖がついたら困る?」
      きらきらと水しぶきを散らせた銀髪をかがやかせ、チカが笑いながら開いた両足のあいだに顔を近づけ、先端を軽く噛んでくる。
      「んっ……!」
      何度も「いやらしい色してる」と囁かれた筋を浮き立たせる竿にも、重くしこった陰嚢にも歯をたてられ、頭の中が白くとけていくようだった。
      下から上に向けて陰嚢をそっと舐めあげられると、びくっと腰が跳ねる。あまり弄られるきっと痛くなるだろうけれど、チカの舌遣いは痛みの一歩手前、きわどい線で止めてくる。
      「また、いきそう……」
      酸素が頭に行き渡らず、舌足らずになるのがもどかしい。胸を波立たせて喘ぐと、熱心に陰嚢を舐め回していたチカがちらりと視線をあげた。
      「このままがいい? それとも、もう一度してもらいたい?」
      「……して、欲しい」
      今日の自分は変だ。ほんとうに変だ。でも、それを悔やむのは明日でいい。
      「それじゃ、おいで。自分で挿れてごらん」
      腕を広げるチカに抱きつき、いい匂いのする湯のなかでもう一度またがった。そして彼のペニスを握り、先端で自分のそこをまさぐる。
      いつから自分のここが物欲しげにひくつくようになったのかなんて、覚えていなくてもいいことだ。
      恐ろしく硬く、熱いものがじわじわと埋まってくる。その感触を一刻も早く置くまで味わいたくて、思いきって腰を深く落とすと、凄まじい快感が走り抜けた。
      「……いい? きみのここは、これから先ずっと僕だけを咥え込むんだよ。……こんなにいやらしい身体、ほかの誰にも渡せないよ」
      「あ――ぁ……ンぁ……いい……っ」
      とろけた襞で無意識に締め付け、チカに顔をしかめさせてしまった。ぎりぎりまで引き抜いたあと、南は耳まで赤くして我も忘れて腰を揺する。
      「いやだ、もう、……ほんとにおかしくなる……っ」
      「自分から挿れておいてなに言ってんの。千宗のここ、こんなにとろとろになってるんだよ」
      くく、と笑う声とともにつながった場所に指を這わされ、掠れた声をあげた。
      赤く充血した乳首をつままれ、噛まれる。強く、弱く、また強く。頑丈な歯で敏感な先端を押し潰される感覚に耐えきれない。
      うなじをぐっと引き寄せられ、深いキスを要求される。『調教していい?』と聞かれるまでもなく、もうすでにさまざまなことを教え込まれている気になるのは、なぜなんだろう。

       


      絶対に浮気しないでね、と顔に似合わず可愛らしいことを言うチカにバスタオルでくるまれ、最後に連れていかれたのは、あの天蓋つきのベッドだった。
      「そろそろきみがほんとうにおかしくなるかも」
      笑顔のチカにとんと胸をつつかれ、力なくベッドに倒れ込む。
      何度もいっているのに、覆い被さってくるチカの肌が触れると、口の中がからからに干上がってしまう。
      薄暗がりに見える無駄のない、引き締まった身体。チカだけが持つエロティックな匂いと重みを感じて、南は息を切らしながら彼の背中を強く抱き締めた。
      自分と同じ熱を持った勃起が腿のあたりに触れてくる。そうとわかると、さっきまでチカを受け入れていた場所が疼いてきてしまう。
      「うしろからして欲しい? 恋人同士なら、やっぱり顔を見ながらのほうがいいかな」
      まだ湿っている陰毛をかき分け、チカが握り締めてくる。ゆるめたり、握ったりと繰り返されるうちに再び硬くなってくる。
      「ね、千宗はどっちがいい? 教えてよ。きみの望みどおりにしてあげるよ」
      「おれ、は……」
      笑ったくちびるにキスがしたくて、霞む視界をものともせずチカに抱きついた。
      はッはッと犬のような息遣いを自分の耳で聞いても、もう驚きはしない。
      どこかでこうなることを望んでいたんじゃないだろうか、とさえ思う。チカに組み敷かれ、徹底的にいたぶられたいと思っていたんじゃないかと。
      「うしろから……」
      ちいさな声で呟いたにもかかわらず、チカはしっかり聞き取ったようだ。ほんの一瞬目を瞠り、いたく嬉しそうな笑顔を見せた。
      「うしろからがいいの? あれが気に入ったの? 犬みたいな格好で感じるんだ、千宗は」
      「……んっ……ぅ、っぁ、」
      ぐちゅぐちゅと粘度の高いしずくをしたたらせるペニスをそっと撫で回すチカが笑いかけてくる。
      「きみは僕の運命だよ、千宗。……絶対に僕だけのものだよ。浮気、しちゃだめだよ」
      「しない、から……だから……」
      「わかってるよ。ご褒美はちゃんとあげるよ」
      笑い続ける男にくるりと身体を裏返され、さっきと同じように四つん這いにさせられた。
      高くあげた尻を掴まれ、ぐっと押し拡げられる。
      狂おしい飢餓感に苛まれ、南はシーツに顔を擦りつけた。
      「チカ、はや、く、……あ、あぁっ……!」
      硬度が一向に衰えない肉棒に貫かれたとたん、とろりとしたしずくが先端からこぼれてシーツに染みをつくる。
      より奥深くまで達する圧迫感と快感は、後背位でしか味わえない。その快感から南はもう逃れられなかった。
      背後から両腕をきつく引っ張られ、身体の自由がきかない。拘束されている気にさせられるのがたまらなく気持ちよくて、腰をよじり立てた。
      感に煽られ、少しでも腰が落ちそうになるとチカは優しい声で叱りつけてくる。
      「だめだよ。きみは犬なんだから、ちゃんとそれらしくしなくちゃ」
      「ッで、も、……ァっ……――いい……っ」
      冗談のように尻を叩かれたのも、底のない欲情に火を点ける要素になる。
      「……見ててぞくぞくする。きみにこれほど犬の素質があるとは思わなかった。ね、今度ゼルダで一緒にショウに出ようか」
      「やだ、……それだけは……ッ」
      「ほんと? ほんとうにいや? でもほら、いまの千宗ったら前だけじゃなくてうしろでも感じるようになってるんだよ。叩かれてもよがるんだよ。こんなに素直で淫乱な身体だったら、みんなすごく喜ぶよ……。ちゃんと目隠しもしてあげるし、身元も隠してあげる。大丈夫、きみを可愛がるのは僕だけだから。それとも、あれかな。ほかのひとにもいろんなことされたい?」
      「いやだ、チカだけ、だって……こんなこと、するのは……」
      淫らな言葉を次々に浴びせられたうえに、ぐりっと一点を突かれてすすり泣くしかなかった。
      「きみを調教したいっていうのは、ただの思いつきじゃないんだよ。さっき黄色の薔薇をくれたでしょう。犲仕吻瓩硫峺斥佞鮖つ花を僕にくれるなんて、ほんとうにきみは可愛いよ。ゼルダでたくさんの奴隷を可愛がる僕に嫉妬してくれてた? 妬いてくれるんだってわかったら嬉しくてたまらなくて……、千宗を放っておけないなって思った」
      深々と貫かれながら前を弄られ、南の耳にはもうなにも届かない。たとえ、届いたところで、黄色の薔薇がそんな恐ろしい花言葉を持っていたなんて知らなかったというしかないだろう。
      それに、こういうときのチカになにを言っても無駄だ。軽い興奮を交えた声が、刻一刻と熱っぽさを増していくあいだは。
      「前に、橘くんとのことでちょっとだけ嫉妬してくれたでしょう。……僕はね、あのときの可愛いきみを思い出して、何度もオナニーしちゃったよ。そりゃね、きみといまこうしている快感とは全然比べものにならないけど。想像のなかじゃ、みんなが見ている前でいやがるきみを縛って、ひざまずかせて、僕のここをしゃぶりたいってはしたなくおねだりさせてさ。……うまくできたら、こんなふうに、うしろから何度もしてあげて」
      「んんッ、あっ、あっ……ッ」
      太く硬いものがやわらかに潤むそこを抉り、南の感じるところを執拗に探しあててくる。
      「僕だけの犬にしたいって、ほんとに思った。首輪をつけて一生大事に飼いたいよ。僕が触れたら、いつでもどこでも感じる身体にしたいって、ほんとうにそう思ったんだよ」
      壊れるほどに突きまくられ、容赦なく尻を叩かれる。しまいには尻が腫れ上がってしまうような感覚に襲われ、声が嗄れるほどに悶えた。
      「今度はオナニーの見せっこをしようか。僕、千宗が自分でしてるところを一度でいいから見たいんだ。きっとすごく色っぽい顔なんだろうな……。考えただけでおかしくなりそう」
      おかしくなるのは、間違いなく南のほうだった。以前から彼の言葉遣いには強い癖があったけれど、明日から一か月近く会えないという寂しさで一層極まってしまったらしい。
      言うだけじゃ飽き足らないのか、背後から手を回してきて乳首やペニスの先端をしつこくまさぐり続け、汗ばんだ胸をぴたりと押しつけてくる。
      「ドイツから帰ってきたら、ピアスしてあげるよ。ここに僕のものだって印をつけたい」
      しつこくいたぶられた乳首がシーツに擦れるたび、びりびりと甘い電流が走るようだった。
      彼の噛み癖で、いやらしくふっくらと色づく乳首にピアスをしたいとチカは言っているのだ。
      「……んなこと、した、ら、……もう、二度と……元に戻れなくなる……」
      「いいじゃないか。だってきみは僕のものだもん。感度だってもっともっとよくなるよ」
      「だめだって……ッ! そこは……」
      「どうしてもだめなの? じゃ、耳朶は?僕とおそろいのピアスはどう? うんって言ってくれなかったら、もうしてあげないよ」
      焦れったく揺さぶられ、次には引き抜かれていくことに南は息を吸い込み、とうとう観念した。
      この男になにをどう言っても無理だ。絶対に無理だ。
      「耳だったら、……いいよ」
      強烈な快感を取り上げられるのが怖くて、うんと頷いてしまうのが我ながら本気で情けない。
      「ほんとうに? 嬉しいな、どこからどう見ても、きみが僕のものだってわかるんだよね。とっておきのダイヤをつけてあげるよ」
      でもその前に、と背後からのぞき込んできたチカに顎を掴まれた。
      「僕もいきたい。いままで我慢してたから、……ちょっと乱暴にしちゃうかも。ごめんね」
      抑えきれない興奮と壮絶な色気を漂わせた視線に射抜かれ、無我夢中で頷いた。
      目尻に残った涙を舐め取り、微笑んだチカが体重をかけてのしかかってくる。
      「あ、――ッチカ……っあぁっ……!」
      何度も達したことで内側が以前よりも熱くぬめり、淫らにひくついてチカを引き留める。
      細くねじれた絶頂が延々と続き、どこまでも飲み込まれていくようだった。こんな快感、普通のセックスじゃまず味わえない。もう絶対にほかのひととなんかできない。南は泣きじゃくり、欲情した。
      勃ちっぱなしのペニスからは、突かれるたびにとろとろと精液があふれ出す。
      「んんッ……!」
      「ねえ、千宗」
      最奥に突き当たったところで、彼のものがぐっと硬さを増したようだった。
      シーツを引き裂く勢いの南をねじ伏せ、チカが甘く囁いてくる。
      「いつかほんとうに犬になって」

       


      昨日の自分が馬鹿だったと冷静に振り返ることができるのはもっとあとだとしても、翌日は散々だった。
      週末だったからよかったようなものの、足腰がガタガタで、成田空港に向かうチカのあとを追うのもやっとだった。
      ルフトハンザ航空の直行便でドイツに帰るというチカの荷物は、ちいさなボストンバッグひとつ。スタンドカラーの黒いコートが彼の鍛えた身体にしっくり馴染み、やや青みがかったサングラスも憎らしいほどに似合っている。
      それよりもなによりも、南が負けたと肩を落としたのは、チカのすっきりした顔だ。やってやってやりまくった翌日なのに、ズタボロの自分と比べて、人混みを器用にすり抜けていく足さばきはお見事としか言いようがない。
      チェックインをすませ、荷物も預けたところでチカが振り返った。
      「寂しいな、きみと離れるなんて耐えられないよ」
      「……一か月後には帰ってくるんだから我慢しろ、それぐらい」
      無愛想に言い放つ南に、チカは可笑しそうな顔だ。
      ちらっと視線を合わせたところで南は右耳をそっと押さえ、そっぽを向いた。
      彼の右耳には、一カラットのきらめくダイヤモンド。それと同じものが自分の右耳にもある。
      「それ、家に帰ったら忘れずに消毒するんだよ。一か月もすれば慣れるから」
      昨晩、彼に空けてもらったばかりのピアスホールが軽く疼いている。
      絶対に髪を伸ばそう。そうしないと、会社でなにを言われるかわかったもんじゃない。
      「ねえ、僕がいないあいだ、ほんとうに浮気しちゃだめだよ。約束だよ」
      どうにもこうにも心配らしい。顔をのぞき込んでくる男の額を指で弾き、南は口をへの字に曲げる。
      「おまえこそ、しないって約束できんのか? ドイツに帰ったら、あっちのSMクラブにまた顔を出すんだろ」
      「それはそれ、これはこれ」
      なんとも腹立たしいことを抜かすチカが、次の瞬間、にこっと笑って首を傾げる。
      「冗談だよ。約束したでしょう、僕のご主人様はきみだけだって」
      「……わかったから、もう行け」
      小声で交わすにしても、内容がきわどすぎる。南は深々とため息をついた。
      チカと出会い、手をつないで、キスをして、SMクラブにまで行ってしまって、まさかその果てにピアスまでしてしまうなんて。
      無骨で平凡な人生がチカの登場で、思わぬ方向に曲がっていっているような気がするのだが、いまさらおまえのせいで踏み外したと喚いても遅いから黙り込むだけだ。
      本音を言えば、ちょっと寂しい。たとえ一か月でもチカと離れるのはせつないから自然と口数も少なくなる。
      周囲はざわめき、人通りも絶え間ない。ここを拠点にして世界各国へと散らばっていくひとびとを眺め、南は、「そういや」と呟いた。
      「昨日の俺……なんか変だった、よな。ごめん」
      いたたまれなさにうつむくと、ややあってからチカが噴き出す気配が伝わってきた。
      「謝るのはこっちだよ。……あのね、じつは昨日の晩、最後に食べたクッキーに軽い媚薬を仕込ませていただきました」
      「媚薬って……」
      「ドイツで買った確かなものだから、後遺症はないよ。記憶、飛んでないでしょう?」
      「飛んで、ないけどよ……おまえなあ!お、俺になんてことを!」
      「怒らないでよ。だってああでもしないとセンちゃん、あんなに乱れてくれないでしょう」
      「くそ……! この馬鹿!」
      腹立ちまぎれに、思いきり銀色の頭をひっぱたいた。そうこうしているあいだにも、あんなことやこんなことをしてしまった自分が走馬燈のようによみがえってきて、恥ずかしさと怒りのあまり昏倒しそうだ。
      「ねえ、昨晩のこと、覚えてる? どんなふうにせがんできたか、どんなふうに甘えてきたか」
      「全部忘れたに決まってるだろ!」
      「まあまあ、ね、そう怒らないで。ほら、そろそろだから見送ってよ」
      「どこまで見送りゃいいんだよ!」
      「あっちまで」
      にこにこと笑い続けるチカが差し出すチケットをもぎ取り、南は憤然と歩き出した。
      生まれてこのかた、一度も日本から出たことがないだけに、成田空港の内部がどうなっているのかよくわからない。
      隣を歩くチカが、「怒らないでってば。ケーキ買ってきてあげるから」とか、「あっ、じゃあさ、本場ドイツのベンツもおまけにつけちゃうから」とか、ふざけたことを言いながら顔をのぞき込んでくるが、全部無視した。
      広々とした通路を抜け、階段を下り、カウンターをすり抜ける。そのあいだ、ずっと頭に血が上りっぱなしだった。チカに言われるままチケットを係員に見せ、見送りには必要だからと言われて数日前に取ったばかりのパスポートを提出した。
      こともあろうに、恋人に一服盛るとはどういうことか。確かにいつもより感じてしまい、チカを求め続けたけれど――いっそのこと、記憶が全消去されてしまうような副作用があったらよかったのに。
      だけど、そんなことになったら、チカが好きだという根本的なことも忘れてしまう。
      ちくんと響く痛みは、馬鹿げた恋によるものなのか、ピアスホールを空けたせいなのか、もうよくわからない。
      怒りに煽られてよくわからないまま歩き続け、気が付いたらリッチな座り心地の座席に腰を下ろしていた。
      「見送りって、ほんとうにここまで来ちゃっていいのかよ……」
      「いいんだよ。特別に機長に頼んであるから、離陸ギリギリまでゆっくりしていても大丈夫」
      いくら伝説のプレイヤーといえど、そんな勝手が通用するのだろうか。にわかに不安にってきてあたりをきょろきょろと見回したが、静かな空間には自分とチカしかいない。
      「まだ怒ってる? ごめんね、もうしないから許してください」
      しおらしいことを言って頭を下げる男にふんと鼻を鳴らしたが、この苛立ちがそう長続きしないことは自分でもわかっている。
      どこを起点にしたのか、もういまとなってはわからないけれど、なにをしでかすかまったく予想できないチカに惹かれているのは嘘じゃないのだ。
      重々しいエンジン音が聞こえてきて、「それじゃ、そろそろ行くよ」と腰を浮かせた。
      チカはまだ不安そうな面持ちで、とっさに手を掴んでくる。
      「おまえな……」
      こんな顔をさせたまま、ドイツに行かせることはできないと思う自分が甘いのだろうか。
      高校時代から固い絆で結ばれていて、一時は道を違えたものの、大人になったいま、再会した自分ったいは友情とまた違う感情が待つステップへと踏み出している。そして南自身、そこから下りるつもりはこれっぽっちもないのだ。
      天井をあおぎ、息を吸い込んでから南は苦笑してそっと腰をかがめた。
      「責任、取るって約束したんだろ。それ、……守れよ。おまえがもしドイツで浮気しようもんなら、その顔ボッコボコにしてやるからな」
      「センちゃん……」
      「好きだよ、チカ。俺にはおまえだけなんだよ。……気をつけて行ってこい」
      あたりに誰もいないことを確認して、プラチナシルバーの髪に触れながらそっとキスした。
      別れが近づいているけれど、昨日の甘さがまだ残っているようなくちびるをもう少しだけ味わっていたい。
      チカのふっくらしたくちびるも、キスを繰り返すことでようやく安心したようにほころぶ。
      自分でも可笑しくなるような恋の痛みに浸っていると、突然足下がぐらぐらと揺れだした。
      「なんだ!」
      すわ地震かと慌てて周囲を見渡す南の耳に、なめらかなアナウンスが聞こえてきた。
      「本日もルフトハンザ航空をご利用いただき、まことにありがとうございます。乗客の皆様、おはようございます。この一五十三便は定刻どおり……」
      それから、エンジンが本格的にかかる音。
      口紅を綺麗に塗ったフライトアテンダントがすべるような足取りで近づいてきて、あんぐりと口を開ける南ににこやかに告げる。
      「お客様、離陸準備に入っておりますから、座席にお座りになってシートベルトをお締めください」
      ゴーッと身体全体を揺るがすような音にチカの顔を見ると、ひどく嬉しそうだ。
      「大丈夫、ファーストクラスにしたからゆっくりくつろげるよ」
      「バ、バカ、おまえ、いまはそんなこと言ってるんじゃ……」
      まさか――、まさか。空港の仕組みをよくわかっていないうえに、パニックに陥っていた自分は、もしかして、いままさにドイツへと向かう飛行機に乗っているのだろうか。
      青いサングラスを押し上げ、チカがにんまりと笑う。
      「ようこそ、三泊四日のドイツの旅へ。きみの休暇届はちゃんと取ってあるから安心して。短いけど楽しい旅行にしようね」
      うきうきとした声が右から左に抜けていった。
      唖然とする南の視界――ちいさな窓の向こうを、灰色の滑走路が素早く横切っていく。
      あり得ない。まったくもってあり得ない展開だと、南は青ざめる。いくら自分が抜けているからといって、こんなどんでん返しを食らってまでも平常心を保っていられるわけがなかった。
      いったいどんな手段で休暇届を取ったのか、そもそも見送りにパスポートが必要だと言ったのは嘘だったのか。いいや、それよりもなによりも、今気にしなければいけないのは、チカとドイツに行ったらどんな日々が待ち構えているかということだ。
      たった三泊四日とはいえ、同行するのはよりによってチカだ。彼と一緒に過ごす濃密な時間で人生が大きく変わってしまいそうな気がするというのは、けっしてオーバーな表現ではない。
      すぐそばで、チカがぱちりと目を閉じる。南が百年かかっても到底真似できないようなウィンクには、眩暈を覚えるほかなかった。
      「僕も大好きだよ、センちゃん。ずっとずっときみだけを愛してるよ」
      まばたきした次の瞬間、まったく先が読めない男と、それに思いきり振り回される男を乗せて、ルフトハンザ航空一五三便は定刻どおりドイツへと向かって飛び立った。

       

       

      [2003/12 newly witten play story]


      こんにちは!

      0

        いつもお世話になっております。秀 香穂里です。

        あらためて、ブログを開設してみました。

        今後しばらく、11/11のお茶会のことや、ガーデン、スパークといったイベント周りのこと、

        また新刊のことについても触れられたらいいなと思っております。

        ピンクリボンピンクリボンピンクリボンピンクリボンピンクリボンピンクリボン

        あまり長続きしないかもしれませんが(でもちょこちょこ書きたい)、

        温かく見守って頂けると嬉しいです!



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