なぜか眠れない

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    昼寝しているからなのでは……!? という感じですがアセアセ

    この時間どうしても薬を飲んでも眠れないので、動画を観つつぼんやりしています。

    明日、かかりつけの病院で、もう少し強めの薬を出してもらうことにします。

     

    来週はいよいよ温泉2連発!

    月〜火と、金〜日です。

    近場なんですが、東京を離れてのんびりしてきますね。

    美術館も多い土地なので、ぜひ見たいきてい

     

     

     

    心療内科に通っている方、結構多いようですね。

    私も最初は恥ずかしさと恐れがあって、なかなか行けなかったのですが、症状が悪化してしまい、とうとうお世話になることになりました。もう5〜6年になります手

     

    これまでに通ったのは3軒。いまは、振り出しに戻って近所の心療内科に通っています。

    前はちょっと遠いところで、予約も取れないし、待ち時間だけでも疲れてしまうので、しばしお休みすることにしました。

    いろいろ考え方はあると思うのですが、なにかああったときパッと行ける病院がいまはいいみたいです。

     

    今週はだいぶ休んで、元気になりました。

    新しい仕事についてもいろいろ浮かんできたので、さらに、温泉で妄想してきますハート

     

    できれば、細くても長く書いていきたいので、健康に留意しつつ、頑張っていきます。

    ここをごらんになっている方も、ひとりじゃありません。

    いまの自分を全目的に受け入れて、「自分、いままで大変だったんだな」と認めてあげてくださいませね。

    キャパはひとそれぞれ。

    他人と自分をどうしても比べがちになることもあるかと思いますが、いまの自分は精一杯やっているはず。

    自分の好きなこと、そして弱さ、苦手なことをを認めるところから少しずつ進んでいける気がします。

    自分を理解するって、結構難しいですよね。

    私もまだまだこれからですkyu

     

    無理せず、自分らしいペースでやっていきましょう♪

    応援していますハート


    11/11お茶会レポ

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      無事に開催できました!

      参加者の皆様と、協力して下さった先生方のおかげです。

       

      お店は、新宿三丁目駅からほど近い「サロカフェ」。すごく落ち着くお店でごはんも美味しいのです。

      ちなみに店員さんが皆さんとても優しくて親切です。りゅうちぇるに似た美形の店員さんがいますよ!

      今回飲み放題のプランにしたのですが、皆さんたくさん飲んで食べてくださってほんとうによかったですハート

      ↑すいさん特製のウエイティングボード!

       

      進行としては、まず、総合司会のすいさんからご挨拶。

      そして、私からもご挨拶。スタッフの皆さんの紹介。で、早々に「カンパーイびっくり」」

      実質1時間45分ぐらいのパーティなので巻きです笑

       

       

      このあと、ゆゆさん司会による質問コーナーがありました。

      一部覚えているところで言うと……。

       

      苺BLにはまったきっかけは?>小説JUNEに載っていた武士とお小姓の心中物語にやられ、知恵熱を出すほどはまったのがきっかけです。

      苺ロリータで好きなブランドは?>いまの最愛はアリス・アンド・ザ・パイレーツアンジェリック・プリティと、ヴィクトリアンメイデンです。メタモとリフさんも大好き。

      苺すいさん、ゆゆさん、西野さん、れんさんとの出会いは?>Twitterがきっかけで、一緒にごはんするようになりましたハート

      苺作品を書くにあたり心がけていることは?>そのキャラらしいエロです!

       

       

       

       

      その後、西野さんとれんさんによるビンゴ大会。これがもうめちゃ盛り上がりました!

      賞品は私の本やお気に入りグッズなのですけど、皆さん喜んで下さって嬉しい〜〜。

      西野さんのスピーディな司会と、執事のようにお美しかったれんさんのラウンドが目に焼き付いています。

      すいさんはバリキャリ司会でしたし、ロリなゆゆさんはお花のように可愛らしかったですよ。

       

      私は前半と後半、テーブルを回って皆さんとお喋り。

      質問に答えたり、サインしたり、握手したりと、とてもしあわせなひとときでした。

      皆さんと距離が近くてほんとに嬉しかったです!

       

      これ以上ないぐらいのほぼ満点ゆう★なお茶会になったのではないかと自負したいところです笑

       

      すごくすごく楽しかったので、ここまでの規模とはいかなくても、またオフ会の企画を立てたいなと思っていますので、ぜひご都合があえばいらしてくださいね。

       

      じつは、この日みんなほんとにめまぐるしく動いていたので、写真がぜんぜんないのです……!

      申し訳ないです……。そこは反省。

      でもこころにあの日の光景、皆さんの声と笑顔はしっかり焼き付いています。

      素敵な1日を、ありがとうございました。

      またいずれ、一緒に楽しい時間を過ごしましょう:)

       

       

      そして、この日までの拍手コメントへのお返事をほっしぃ

      > 11/11 15:39 お茶会うらやましいな...さん 大阪でもやりたいですね! 考えてみますので待っていてくださいね。
      > 11/11 15:40 「他人同士Encor...さん ぜひぜひ、お時間あるときにでもパラッとめくってやってくださいね。ありがとうございました♡

       


      お茶会本番

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        今日です! 数時間寝ればいよいよお茶会。

        ドキドキしていますが、すごく楽しみでもあったので、わくわくです。

        荷物の多さにめげて、会場まではタクシーで行くことにします。体力温存晴れ

         

        おみやげも気に入って頂けるといいなあ……とか、

        お料理、飲み物が美味しいといいなあ……とか、

        皆さんが楽しんでくださったらいいなあとか、

        考え出すときりがないので=3

        とにかくしっかり寝て、明日早めに起きてしゃっきりします。

         

        ご参加の皆様、道中どうぞ気をつけていらしてくださいね。

        万が一遅れるなどのことがあったら、お気軽にTwitterのリプを飛ばして下さい。

         

        それでは、今日が楽しい1日になりますように!heart


        いよいよ

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          いよいよ明日、お茶会です……!

          ひえーーー早い・・・

          確か、2月か3月頃から企画を立てて、いろんなひとに相談したのでした。

          準備を始めてみるとこれが結構大変で。

          せっかく読者さんをお招きするんだから楽しいイベントにしないと、と張り切りました。

           

          そんな努力の成果が明日出るのかどうか……。

          きっと閉会の挨拶をするまでハラハラしそうです笑

           

          明日はなんとかお天気が持ち直しそうです。

          一応、傘があったほうがいいかも?

          昼間も20度ぐらいありますが、夕方以降冷え込むようですよ。

          風邪を引かないようにいらしてくださいねハート

           

          参加された皆さんに楽しんでいただけるよう尽力いたします虹

          楽しい1日にしましょう!ラヴネコ


          ドキドキです

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            お茶会まであと2日……!

            ドキドキしてきましたさすがに。

            当日の仕様書などを葵居ゆゆさんがめちゃくちゃ綺麗に仕上げてくださってうおーーーー。

            感謝感激です……。

             

            当日の総合司会は、淡路水さんぴのこ:)

            サブ司会が葵居ゆゆさん晴れ

            お楽しみビンゴタイムは西野花さんと宮本れんさんきらきら

            どうですか!! めちゃくちゃすばらしい布陣。

            もううっとり。

             

            参加者様、そしてスタッフさん誰ひとり欠けても当日を迎えることはできないので、

            皆さん、どうぞお店に来るまでに気をつけていらしてくださいねハート

             

            当日の東京のお天気は曇りときどき雨。降水確率は50%。

            最高気温は20度とわりと暖かいかも。

            一応、折りたたみ傘を持参したほうがよいかもしれませんね。

             

            私はあと2日、はらはらどきどき(大事な荷物を宅配に出すので)

            しながら過ごします。

            でもあっという間に土曜日ですよね。

            どうぞ元気に、笑顔でお会いできますようにkyu

             

            翌日はサイン会ですよ〜〜〜!リボン


            お茶会の準備:2

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              お茶会、サイン会まで1週間を切りましたね……!

              ドキドキしていますが、私はホスト役として、

              いらしてくださるゲストの皆様を笑顔でお迎えできるよう努めます。

               

              お茶会のほうは、結構おひとり参加が多いので、テーブル配置としては

              おひとり同士にして、お話しやすいようにと考えています。

              お連れ様がいらっしゃる場合も同様に。

              皆さん、どきどきそわそわしてくださっているかなと思うので、

              できるだけくつろいでいただけるように努力します。

               

              なによりお料理飲み物が美味しいお店なので、

              しっかり食べていってくださいkyu

              このティーパーティが終わったら、お店の場所をブログでご紹介しようと思っています。

              いろんなBL作家さんがパーティやお茶会を開いてくださったらなあー。

              私が行きたいですバラ

               

              さてさて、今週はかなりゆるく仕事を入れていて、

              明日はお茶会の仕込みです。お土産グッズを作ってきます。

              これは全員にお配りします。

               

              水曜は真面目に原稿かな?

              とりあえず次回作の構想は練っているので、通りますように〜あひょうパンダ


              読み物リスト

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                ※過去の同人誌を再録。すべて読み切り形式です。

                 

                ●岡本さんったら、もう!(『真夏の夜の御伽噺』番外編/2009年頃)

                 

                ●世界はセンちゃんでできている(前編/『誓約のうつり香』番外編2006)

                 

                ●世界はチカでできている(後編/『誓約のうつり香』番外編2006)

                 

                水嶋/澤村『くちびるに銀の弾丸』(『くちびるに銀の弾丸』番外編2008)

                 

                劣悪な環境で恋は生まれる(書き下ろしオリジナル2009)

                 

                愛してるよ(『チェックインで幕はあがる』2006)

                 

                Secret214(『くちびるに銀の弾丸』番外編2006)

                 

                温泉、で?(『くちびるに銀の弾丸』番外編 執筆年不明)

                 

                求めたら最後(『愛執の鎖』番外編2006)

                 

                炎は青く(書き下ろしオリジナル2006)

                 

                ボタンをはずして(『黒い愛情』番外編2006)

                 

                3アタック(『3シェイク』番外編2008)

                 

                チカ☆チカ☆エスカレーション!!(『誓約の移り香』番外編2006)

                 

                Just Married!!(諸々ミックス2011)

                 

                けんかをやめて(『挑発の15秒』番外編 執筆年不明)

                 

                Cult ecstasy(『誓約の移り香』番外編2003)

                 

                 


                水嶋/澤村(オリジナル2008)

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                  『よう、澤村。机まわりの片付けが終わったら、一杯呑みに行かないか?』
                   電話越しに聞こえる陽気な声に、ちょうどぞうきんで机を拭いていた澤村朗は思わず吹き出してしまった。
                  「伊藤さん、その台詞、今日でもう連続三日ですよ。だいたい、今日は仕事納めなんだし、せっかくなんだから伊藤さんも家族サービスで早めに帰ってあげたらいいじゃないですか」
                   当然の言葉に電話の向こうにいる上司は唸っているが、やがてちいさなため息とともに、『ナイトシステムきっての遊び人と言われたおまえに説教を食らう日が来るとはなぁ』とぼやいている。
                   数年前前までは、ゲームメーカーとして中堅どころをなかなか脱しきれなかったナイトシステムがこの数年でめざましい発展を遂げ、いまでは大御所とも言える位置づけにまでなった。伊藤は、ナイトシステムが送り出す多くのゲームの総監督を務める立場で、広報のチーフである澤村とも気心知れた仲だ。
                  『まったく、世も末だ。去年、一昨年までのおまえときたら、年末ギリギリまで遊びほうけるメンバーの筆頭だったじゃないか』
                  「人間、変わるときは変わるもんなんですよ」
                  『ナマ言いやがって。なんだよ、いい相手でもできたのか?』
                  「いい相手かどうかはべつとして、今年の俺はちょっとインドア派になろうかなと」
                   鋭い突っ込みを軽くいなし、「ともかく、お疲れさまでした」と笑いながら締めくくった。
                  「また年が明けたら、なんだかんだ言って、あちこちの出版社さんやメーカーさんと呑む機会があるんですから。伊藤さんもちょっと胃を休ませておいたほうがいいですよ」
                  『わかったわかった、じゃあまたな。おまえはとっとと可愛い恋人のところへ行け』
                   最後は半分拗ねたような声とともにガシャリと電話が切れたとたん、「澤村先輩、ホントに今夜の合コン、行かないんですかぁ?」と隣のブースから声がかかった。ぞうきんを折り畳んで振り向けば、同じようにワイシャツの袖をまくった後輩の瀬木が、まだ諦めきれないといった顔をしている。
                  「あのなー、合コンはしばらく休むっつっただろ。だいたい、俺がいないほうがおまえとしても勝率が上がっていいじゃねえかよ」
                  「そうなんですけどね。でも、ほらやっぱり、僕なりの誠実さっていうのは、澤村先輩のようないかにも遊んでます的なプレイボーイなタイプが隣にいないと霞んじゃうっていうか……ッいてっ、……グーで殴ることないじゃですかー!」
                  「俺がいつ、おまえの引き立て役になったんだよ。バカも休み休み言え」
                   ちっと舌打ちしたついでに綺麗になった机の隅に放ってあった煙草をくわえて火を点け、思いきり煙を吹きかけてやった。真っ白な煙をもろに浴びせられた瀬木は、わざとらしいまでにゴホゴホと咳き込む真似をする。
                  「ま、俺がいなきゃおまえが埋もれちまうってのは真実だろうけどよ。とりあえず、しばらく俺を誘うのはナシ。女と呑むのは仕事の席だけだからな」
                  「えー、澤村先輩に『実直』とか『勤勉』って言葉は似合いませんよ〜。ほどほどに遊んでおかないと、いい男のイメージが落ちますよ」
                  「見かけ倒しのイメージなんかいらねえよ。んなメッキみたいなもんはすぐに剥がれるだろ」
                   さらりと言い放つと、これまでともに、節操なしの女好きとして夜な夜な遊んできた瀬木が茫然とした表情で、「澤村先輩……」と呟く。
                  「いつからそんな達観したこと言うようになったんですか……」
                  「ちょっと前から」
                   そう、ほんとうにちょっと前からなんだよな、と胸の裡で呟き、澤村はにやにやと笑う。口の悪い瀬木が言うように、少し前までの自分というのは仕事ができて顔もいい、一晩限りの女と遊ぶことに道徳観の欠片もなにもあったもんじゃない、プレイボーイと言えば聞こえはいいが、ひとでなしと呼ばれてもおかしくないほどのずる賢い遊び人だった。
                   ――それが、たったひとりの相手に焦点を絞るようになっちまったんだから、俺も歳を取ったのか。それとも、相手のほうが上手なのかもしれない。
                   自社作品をより多く売るために、大胆なアイデアでアドバンテージを取る澤村とは違い、慎重に慎重を期し、知識と経験を煮詰めた最後に、誰が見てもたまらなくなるようなひと匙の遊びごころを加えることを熟知している男の冷静な横顔を思い浮かべると、どうしたって笑いが浮かんでしまう。
                   ゲームという、ある種、完成された箱庭を創り上げることに精魂傾けている水嶋弘貴はクラシカルに整った容姿と抜群の勘の良さを持ち合わせ、ゲーム業界のベストクリエイターとしてつねにトップスリーにランクインしている。
                   彼の仕事ぶりをそばで見ていて、パーフェクトな作品というのは一発勝負ではなく、地味な作業の繰り返しの積み重ねの果てにあるものなのだと実感する。ある村の住人としてほのぼのとした暮らしを楽しむ『ぼくらのおやすみ』というシミュレーションゲームのシリーズで、水嶋は現在もヒットを飛ばし続けている。だが、売れているという現状に満足しないのが水嶋という男だ。『ぼくおや』に対する可能性をもっと深く探り続ける一方で、ここ最近では、新規作品の構想も練り始めているらしい。
                   自分というのも結構なワーカホリックだが、水嶋はさらに上をいく。そのことをからかい、『たまには長期休暇とか取ったらどう?』と勧めたが、『一週間が限界だ』とあっさり返されてしまった。
                  『うまく言えないんだけど、いつも、なにかを考えてないとだめになるんだ。まだまだ、俺はユーザーに楽しんでもらいたい。そういうしこりっていうか……過剰な自意識みたいなものがずっとあるんだ。それを解消するためゲームを創っているんだと思う』
                   漠然としたたとえが、いかにも真面目な水嶋らしくて微笑んだものだ。
                  「ま、今年はおまえが合コンのキングになれよ。俺はいまの恋人にふられるまで、とりあえずしばらく遊ぶのはやめとくわ」
                  「えっ、こ、恋人って……」
                   うっかり口をすべらせたことで、顔を強張らせた瀬木がすぐさま食いついてくる。
                  「澤村先輩に恋人がいるらしいって噂、最近よく耳にしてたんですけど……ホントにいたんですか! どこで知り合ったんですか!? どんなひとなんですか!」
                  「あー、まぁ、そのうち引き合わせる機会があったら会わせてやるよ。なんせ、かなりナイーブな奴なんでさ、俺としてもちょっと気を遣うんだよ」
                  「うわ、なんか聞いてるだけでこっちが恥ずかしい……。デリカシーゼロだった澤村先輩にそこまで言わせるひとってどんだけスゴイんですか」
                  「誰がデリカシーゼロだ。ひと言余計だ」
                   ただただびっくりしている後輩の頭を小突くと、盛大なため息が返ってくる。
                  「あーあ……、澤村先輩と張り合うのがおもしろかったのに……。先輩が参加しないんじゃ、つまんないですよ。グラフィッカーの北野くんでも誘って、つつましく忘年会でもやろっかな」
                  「やっとけやっとけ。ま、新年会ぐらいはつき合ってやるからよ」
                  「なんかヨユーの発言で軽く腹立つなぁ。いいですよ、もう。澤村先輩は可愛い恋人といちゃいちゃしててください。僕ら寂しい独身者と遊んでくれるのはまた来年、ってことですよね」
                  「伊藤さんと似たようなこと言うなよ」
                   伊藤も瀬木もそろって、判を押したように「可愛い恋人」と茶化す。実際の水嶋と向き合っていると可愛いというよりも手強いと感じることのほうが多いが、それでもやっぱり自分しか知らない一面があるのだ。
                   まだぶつぶつ言っている瀬木に笑い出したところに、再び内線がかかってきた。
                  「はい、企画部の澤村です」
                  『お疲れさま、水嶋だけど。そっちは片付け、終わったか』
                  「うん、だいたい。もうちょっとしたらそっちに行くよ」
                  『いや、いい。俺のほうはもう終わったから、挨拶がてらおまえのところに寄るよ』
                  「あ、そう? 悪いね、わざわざ」
                   小声で言いながらそっと隣の様子を窺ってみると、瀬木もやっぱり内線をかけている。『どこの店に行く? もしかしたら、どこも混んでるかもしれないけど』という言葉から予想するに、どうやら彼も合コンには参加せず、仕事仲間の北野と呑みに行くことにしたようだ。
                  「なんかさ、俺が合コンに行かないって言ったら瀬木の奴が拗ねちゃって。これから北野と呑みに行くことになったらしいから、あんたも一応ねぎらってやってよ」
                  『どういう言いぐさだ。合コン、行きたかったら行ってもいいんだぞ』
                  「なに言ってんの。ホントに行ったら、絶対に嫉妬するくせに」
                  『しない』
                  「するって」
                  『絶対にしない』
                   断言する男が、不敵な笑いついでに言ってきた。
                  『俺が一緒に合コンに行けば、おまえのほうが嫉妬するはずだろ』
                  「あんたねー……」
                   痛いところを突かれて言葉に窮した。
                   確かに、水嶋を連れていけばあっという間に女性が群がるのは目に見えている。同じ男としても、彼のプライベートをあますことなく知る恋人の立場としても、その場面を思い描いて知らずと渋面になってしまうのは、惚れた弱みか。はたまた、やはり彼よりも三つ年下のせいだろうか。
                   水嶋が持つ硬質な色気を知るのは、自分だけでいい。生まれ持った品のある笑い方や仕草を少しつつくと、甘い蜜のようにとろりと蕩けていく顔を知るのは、自分だけだ。
                  『どうする。合コン、行くか?』
                  「行かない。さっさとこっちに来い。瀬木たちに挨拶するんだろ」
                   むっとした声で答えると、電話の向こうで可笑しそうな笑い声があがった。それが憎めないのだから、恋の力は案外ばかにできないものだ。


                  「ねえねえ水嶋さんも澤村さんも一緒に呑みに行きましょうよー」と懸命にねだる瀬木と北野を、「ハイハイーまた来年な」と適当に引き剥がし、吹き出す一歩手前の男と肩を並べて会社を出たのは、夜の八時過ぎだ。
                  「ったく、一週間もすりゃまた仕事で会うっつうのに、あいつらもしつこい」
                  「仕事の上司として、後輩に慕われているっていういい証拠じゃないか。そう冷たくあしらうなよ」
                   質のいいカシミアでできたシングルコートを着た水嶋が、ふわりと夜風に舞い上がるマフラーの端を押さえながら笑いかけてきた。彼の端整な面差しに似合うそのマフラーは、クリスマスに澤村が贈ったものだ。細身の身体にしっくり馴染むコートをさらに映えさせる色合いのマフラーを水嶋もことのほか気に入っているようで、三日に一度は巻いている。
                  「それ、気に入った?」
                  「ん? ああ、うん」
                   頷く水嶋が照れたようにマフラーをくるりと巻き直す。
                  「肌触りがいいから」
                  「俺が贈ったヤツだからとくにお気に入りなんだって素直に言えばいいじゃん」
                  「……たまにどうしておまえを好きになったんだかわからなくなるよ」
                   呆れた声でけちをつけられるのは、もう慣れっこだ。水嶋とて、こっちの図々しい物言いにはさすがにある程度の免疫ができているのだろう。仏頂面は長く続くことなく、澤村が差し向けた他愛ない話にふっと食いついてきて、そのままふたりが住むマンションの最寄り駅まで戻った。
                   駅前には遅くまでやっているスーパーがある。そこに立ち寄ると、さすがに年の瀬らしく、多くの客でにぎわっていた。正月用のしめ飾りを手に取り、「こういうの、どうする? 買う?」と聞くと、「うん」と素直な声が返ってきたので、玄関に飾るもの、リビングに飾るものと、スーパーの黄色い籠に放り込んだ。
                  「とりあえず、今日のところは鍋にするか。水炊きでいいか、澤村」
                  「いいよ。あ、カセットコンロのボンベ、切れてなかった?」
                  「切れてたかも。スペアを買っておくか」
                  「大晦日まではまあ適当にやるとして、三が日はなに食う? せっかくの休みなんだし、できるだけ外食しないで、家でゆっくり食べようよ」
                   澤村としてはなにげないつもりで言ったのだが、水嶋はちょっと驚いたようだ。
                  「三が日まるまる、家で過ごすのか?」
                  「たまにはそういうのもいいでしょ。普段、お互いに仕事漬けなんだから、年の始めぐらいのんびりしたって罰あたらねえだろ」
                  「いや、……うん、そうだけど……」
                   まだ不思議そうな顔をしている男が手にしている牛乳パックを取り上げ、「なんだよ。なんか文句あるの」と言うと、「そうじゃない」と水嶋はほんの少し首を傾げる。それから、ふいに可笑しそうに笑った。
                  「おまえの口から、『のんびり』なんて聞くとは思わなかった」
                  「あのね、俺も一応ひとの子なんだよ。当たり前に疲れて、当たり前に腹が減るんだよ」
                  「だったら、三が日は全国各地のうまい雑煮をつくってやる」
                  「水嶋さん、そんなもんつくれんの? 誰かに教わったの?」
                   意外な言葉に、澤村のほうが驚いてしまった。水嶋が身の回りをきちんとこなす性格だということは前から知っていたが、まさか雑煮までつくれるとは恐れ入った。
                  「前に、そういう料理本を買ったんだ。俺もおまえも東京生まれの東京育ちだろ。大根とにんじん、小松菜と鶏肉なんかが入って、醤油でさっぱり味つけしたものがお馴染みだよな。でも、新潟じゃ鮭とイクラが入ってたり、京都の丸餅と西京味噌でつくる雑煮も旨そうなんだ。何度か試しにつくったことがあるから、旨いと思う」
                  「へえ、楽しみ。んじゃ、そのあたりの材料も買っておくか」
                   ふたりでああだこうだと言いながら、黄色い籠ふたつぶんの買い物を終えて自宅に戻り、楽な部屋着に着替えたあとは手早く水炊きの準備に取りかかった。互いに無言なのは、腹が減っている証拠だと思うと、吹き出したくなる。水炊きに合わせてとっておきの日本酒を出し、ぬるめの燗にした。
                   自由が丘にある水嶋のマンションは、トップクリエイターらしく広々とした間取りで豪華なものだが、今年はリビングにこたつが加わった。もともと床暖房のある部屋だからこたつは必要ないのだが、澤村が、「日本人らしい冬休みには、やっぱこたつでしょ」と言ったところ、水嶋も、「まあ、そうか」と悪くない顔をしていた。
                  「おっ、煮えてきた煮えてきた」
                   カセットコンロで煮え立つ鍋の蓋を開け、ふわっとした蒸気があがったところで水嶋がタイミングよくこたつに入ってきた。
                  「ちょっと早いけど、今年も一年お疲れさま」
                   水嶋の杯にとっくりを傾けてやれば、彼も同じことをしてくれる。それから、互いに笑って杯を軽く触れ合わせた。
                  「お疲れさま。……うん、旨い」
                   日本酒の香りを楽しむ水嶋が目元をうっすらと染めていくのを間近で見ているのは、楽しい。テレビを点けなくても、ぐつぐつ煮えた鍋をのぞき込みながら今年一年の出来事をつらつら話しているだけで、とても楽しい。
                   ――たぶん、お互いの素顔を知ったからなんだろうな。
                   あらかた食べ終えたところで満足そうに腹を撫で、煙草をくわえた水嶋にライターを向けてやると、安心しきった顔で彼も身体をすり寄せてくる。たった数時間前までは、瀬木や北野に、『来年もよろしく』とかしこまった表情で言っていたくせに、いまではすっかりくつろぎ、薄手のボタンダウンのシャツの胸元もゆるくはだけている。
                   部屋にいるとき、気軽なスゥエット姿で過ごす澤村に対して、水嶋はシャツとパンツといった、わりあいきちんとしたスタイルが多い。その凜とした姿が少しずつ、少しずつ甘くほどけていくのは、杯を重ねたせいだけではないだろう。
                  「あー……、一週間も休めるのか。こんなにのんびりした冬休みも久々だな。いつもはぎりぎりまで仕事してたから」
                  「年末年始ぐらいは休んだほうがいいって。あんたみたいな仕事バカは一年に一回ぐらい、まとまった休みが必要なんだよ」
                  「バカはよけいだ。明日は部屋の掃除をして、明後日はまあ適当にのんびりして……」
                   指を折ってなにかを考えていたらしいが、酔いも手伝って、途中で面倒になったのだろう。水嶋が無言で杯を突き出してきたので、澤村は笑いながら、「あとちょっとだけな」と言ってとっくりに残った酒をついでやった。
                   几帳面で、いつどんなときでも自分を厳しく律している水嶋がここまでゆるくなってくれるとは思っていなかったから可笑しい。
                   いい仕事をするぶんだけ、つねに神経の糸をぎりぎりまで張り詰めさせているのだろう。作品に対して真摯に向き合う姿を、澤村もよく知っているから、いま、こんなふうに自分のそばで、少し眠たそうに瞼を擦っている姿がなんとも可愛く見えるのだ。
                  「この休みのあいだぐらいは、なーんにも考えないで過ごしなよ。たまには頭、空っぽにするのって大事だよ」
                  「なにも、考えない……」
                   杯の縁をちらっと舐め、意味ありげな視線を向けてくる水嶋の頬のあたがやけに艶めかしい。さすがに呑ませすぎただろうかと思ったが、――まあいいか、明日も明後日も休みなんだし、と杯をあおったところで、いきなり手を掴まれた。
                  「なに、どしたの」
                  「……したい」
                  「あ?」
                   扇情的なまなざしが真正面に迫り、不覚にもどきりとしてしまった。切れ長の目元がほのかに潤み、くちびるが半開きだ。
                  「朗、したい、……いますぐ」
                  「なっ、ちょ、水嶋さ……」
                  「違うだろ」
                   両腕がするっと首に巻き付き、焦れったそうにこたつの布団をどけて、水嶋が膝の上に乗ってくる。
                  「いつもみたいに、名前、呼べよ」
                  「ひろ……」
                   最後まで言い終えられないうちに、濡れたくちびるが重なってきた。はぁっ、とこぼれる吐息はただただ甘く、ぬるりと絡み付いてくる舌がひどく熱っぽい。そのままうずうずと舌の表面を擦り合わせて、もどかしい快感の切れ端を掴んだところで、勢いのついた澤村が水嶋のうなじを掴んでのけぞらせ、たっぷりとした唾液を伝わせると、こくりと喉の鳴る音がする。
                  「ん――っ……ふ……」
                   無防備な喉元に噛みついてやると、熱い弾力がじかに感じ取れてたまらない。力の加減を考えずに獰猛に食い散らかしたい気分と、水嶋が啜り泣き、しゃくり上げてせがむまで焦れさせたい気分がない交ぜになって、いつまでも舌をもつれ合わせていたくなる。
                   全身を覆い尽くすような欲情をなだめるように背中を撫でてやっても、いまの水嶋には逆効果のようだ。苦しいぐらいに身体を押しつけてきて、制御のきかない昂ぶりがあることを無言のうちに伝えてくる。
                  「なんだよ、あんた、もう硬くなってんじゃん」
                   からかいながらそこをつつくと、無意識に腰をくねらせ、欲情に染まりきった視線が真っ向からぶつかってきた。
                  「だって、……なにも考えなくて、いいんだろ……」
                   こんな顔で、こんなことを言われたら、もうお手上げだ。
                   水嶋から求めてくることはあまりないが、肌を重ねれば敏感な反応を見せる。セックスそのものは嫌いじゃないはずだ。ただ、スマートな誘い方を知らないだけで、いまもこっちの言葉に乗っかっているだけなのだろうが、それが逆に澤村を煽るのだ。
                   巧みな誘い方を知らなくても、水嶋は素直な感情をいまだ大切に胸に持っている。そうとわかったら、よけいに乱れさせたくなる。
                  「なに、したい? どうしたい? 弘貴の好きなようにしてみなよ」
                  「……舐めたい。朗のここ、舐めて、いいか」
                   火照る頬を擦りつけ、視線を絡める水嶋が、スゥエットパンツの上からゆるくそこを撫で回してくる。長い冬休みに入った嬉しさと、強い日本酒のせいで理性のたがが吹っ飛んだのだろう。くすくすと笑いながらこたつを軽くうしろに押しててやると、そのぶん、とぎれとぎれの吐息も下のほうへとずれていく。
                   スゥエットパンツの中に手が入り込み、やんわりと握り込まれただけで、びくっと反応してしまった。
                   そのことに水嶋がちいさく笑ったので、思わず彼の頭を両手で掴んでしまった。
                   長い指が絡み付き、剥き出しにしていく。ぐうっと根元から勃ちあがった男根の張り出した先端のくぼみに、ぷくんと噴き出すとろみが竿を伝い落ちていくのを、水嶋は黙って見つめている。
                   ひたと張りつく視線を感じるだけで身体中を炙られるようで、いたたまれない。
                  「んなに……見んなって……はやく、舐めろよ……」
                  「まだ。もう少し」
                   ぽつんと呟く水嶋のさらさらした髪が太腿の付け根に触れては離れ、くすぐったい。
                  「……おまえのここ……、こんなにいやらしい色になるんだ」
                  「そりゃ、あんたに触られたら、いくら俺でもたまんねえっつうの」
                   くそ、となじりながら、澤村はかすかに身じろぎした。あともう少しこのままの状態を続けられるのだったら、こっちが押し倒してやる。
                   ふいに水嶋が楽しげな顔を近づけてきた。
                  「朗、俺に夢中だろ」
                  「……え?」
                   思いがけない言葉に目を剥いている澤村に構わず、水嶋は身体の位置をずらし、突き立ったペニスをいきなり口の奥へと含む。
                  「ん……ん……っ……っ」
                  「バカ……いきなり、しゃぶるからだろ……」
                   軽く咳き込んでいる男の背中をさすってやったが、腰から下に火が点いてしまった感覚に飲み込まれてしまってまともに思考が働かない。水嶋のほうも同じようだ。じゅるっ、じゅぽっ、とあからさまな音を立てながらくびれに吸い付いてきて、舌をくねり回してくる。ときどき、確信めいた目を向けられるのがたまらなくいい。
                  「ヤバ……あんた、なにその顔……なんだよ、スゲエ、いい顔する……」
                  「……朗の、舐めてる、から……」
                   奥まで含んでいるせいでくぐもった声がどうしようもなく淫らで、潔癖な印象が強い水嶋がさらに深く胸に食い込んでくるようだった。両手で掴んだ澤村のそこをずるぅっと根元まで舌を這わせたあと、もう一度亀頭をねっとりとしゃぶる男の息遣いは浅く、せっぱ詰まっている。ひたむきな奉仕の仕方は最初の頃とまったく変わらなくて、それが澤村を微笑ませるのだ。
                   けれど、毎日、少しずつ、変わっていく。一緒に過ごすなかで、互いに影響を及ぼし合う。そのことを熱く湿っていく肌で、指遣いで知る。スタイリッシュなインテリアの中にこたつなんていう和みのアイテムを採り入れたり、ふたりっきりの時間、空間ならば前よりも大胆に、奔放に求めたり。そうやって、自分の持っているものをひとつずつ共有していく楽しさは、水嶋だけに感じたものだ。
                   くちゅ、とちいさな音を立てて先端からあふれ出すしずくを舐め取る男の赤く濡れた舌先を見ていたら、我慢できなくなってきた。
                  「シャツ、脱いで」
                  「……ん……」
                   ぼうっとのぼせたような顔中にキスしているあいだ、水嶋が膝立ちして自分のシャツのボタンをひとつずつはずしていく。澤村のものを舐めているあいだに自分まで感じていたらしく、指先が細かに震えているのを知り、澤村は笑いながら一緒にボタンをはずしてやった。
                  「乳首、弄っていい? 舐め回していい? あんたが痛がるほど噛んでもいい?」
                   しばらくの間があったあと、こくん、と頷く男のシャツをはだけ、つぶらかな尖りが外気に触れて硬くしこるのを間近で見たら、頭で考えるよりも先にくちびるを押し当てていた。
                  「あ、……あ……朗っ……」
                   最初から思いきり噛んでやった。
                   平らな胸にいやらしく突き出る両方の乳首をぐりぐりとこね回し、根元をきゅうっと噛むと、「あ」と声をあげて、水嶋が喉をのけぞらせる。ここを弄られることに水嶋はあまり積極的ではないことが、澤村をよけいに楽しませるのだ。
                  「ホントはあんた、ここ、めちゃくちゃ感じるんだよな。乳首、ぬるぬるになるぐらい舐めまくってやると、うしろもスゲエ締まるし……」
                  「ばか、なこと……言うな……っ」
                  「じゃ、やめる?」
                   淫猥に舐めしゃぶっていたそこからふいに顔を離すと、水嶋がぱっと表情を変える。困惑や羞恥、怒りを複雑に絡め合わせた最後に、抑えきれない快感に負けたらしい。
                  「――して、……いい、から」
                  「してほしい? 乳首をいっぱい弄って舐めて、って一度ぐらい言ってみなよ」
                  「……ッ……!」
                   凄絶な色気を交えた視線でぎらりと射抜かれた。そんなはしたないことを言うなら舌を噛んで死んだほうがましだとでもいうような顔で、思わず笑い出したくなる。
                   土壇場に追い込まれてもなかなか崩れようとしない芯の強さこそ、彼に惹かれるゆえんだ。
                  「あんたのそういう顔、大好きだよ。やらしいことをたくさんしてほしいくせに、いつまで経っても素直に言えねえんだよな」
                  「……朗……っ」
                   睨まれたところで、核心を突いているという自信があったから笑いかけてやった。
                  「してあげるよ、たくさん」
                   もう一度乳首に舌を這わせ、くちゅくちゅと舐め転がした。
                  「あ……ぅ……っ……ん、ん……っ」
                   真っ赤に腫れ上がった肉芽を執拗にいたぶられる水嶋の声は、もう掠れ気味だ。そのうち、快感に溺れて、無意識に胸をせり出すような格好にそそられる。膝をがくがく震わせて倒れ込みそうになる腰を支え、「もうちょっとこのまま」と命じると、肩を掴んできて必死にバランスを取ろうとするのが妙に健気だ。
                   胸を弄りながら、スラックスのジッパーの上から何度も指で形をなぞると、泣き出しそうな感じの声が降ってきた。
                  「……も、ぉ……いい、から……っ」
                  「いいって、なにが。触っていいってこと?」
                  「ん……ん、……」
                   上手なねだり方をいつまで経っても覚えない男に微笑み、膝立ちにさせたまま、ジッパーをゆっくりと下ろした。金属のジリッと噛む音が水嶋にもよく聞こえるように、もったいをつけて下ろしてやり、下着ごと軽く揉み込むと、いきなり強くしがみつかれた。
                  「へぇ……今日の弘貴、いつもより感じすぎ。下着まで滲んでるじゃん」
                  「言う、な……っ……んっ、ぁ――あぁ……っ」
                   窮屈な感じで下着の脇から硬く勃起したペニスをはみ出させて擦るだけで、ぬるっと濡れる感触が伝わってくる。
                  「あ……朗、ろう、――ん……っく……っ……っや……っ」
                   白いシャツは半端にはだけたまま、スラックスも膝までしか下ろしていなくて、ぬちゅぬちゅと澤村が性器を扱いてやるたびに下着がきつく食い込むのが鋭い快感になるらしい。
                  「……もぉ、……い、やだ、……こんな、格好……」
                  「そう? 俺はまだまだ見てたいけど。あんたが男の俺にいろんなことをされてよがりまくる顔、好きなんだよ」
                   かっと顔を赤くする水嶋の指を素早く掴んで、自分の口に含ませた。
                  「舐めて。しゃぶって。いっぱい。あんたのここ、ほぐすから」
                  「……朗……」
                   ひくひくとしなるペニスからうしろを辿り、きつく締まる窄まりを軽く押してやると、声がぐずぐずと蕩けていく。
                   ――俺だけが知っている顔と、身体だ。お互いにいろんな過去を持っているけど、これから先、この顔と、この体温と、しなやかさを知るのは俺だけだ。
                   隙さえあればいつでも食らいつきたくなるあんたを抱くのは同じ男の自分だと、何度でも言って、何度でも怒らせて、そのたびに求めさせたい。他の誰でもない、この快感を分かち合えるのは互いしかいないのだと、水嶋に徹底的にわからせてやりたい。
                   口内をくちゅくちゅと動く指にたっぷりと唾液を絡ませるあいだ、自分の指を水嶋のくちびるに咥えさせた。
                  「ん、ぅ、ん、ぁっ」
                   濡れた場所を犯されることで、水嶋はもうひとつの繋がり方を覚えたのだろう。澤村の指の根元まで丁寧にしゃぶり、つぅっと垂れ落ちる唾液にも構わない。剥き出しにした性器を擦れ合わせ、ぬるつく快感に互いに掠れた吐息を漏らしたあと、ひくつく窄まりにゆっくりと指を挿れて拡げてやった。もちろん、彼の指も一緒に。
                  「あ――あ……っあ、あぁ……っ」
                  「ハハ、……中、マジで熱い。こんなぐずぐずになってるところに挿れたら、すぐイッちゃうんじゃん?」
                  「う……」
                   しがみついてくる男の指と一緒に、熱く狭い場所をぬちぬちと拡げてやると、水嶋が息を切らしてキスを求めてくる。
                  「朗……ろう……っ」
                   水嶋の身体はどこもかしこも火照っていて、唾液が甘くとろりと混ざり合い、奥のほうも淫猥に絡み付いてくる。
                  「このまま……俺にまたがったまま、挿れてみて」
                  「……っ……」
                   騎乗位は水嶋がもっとも嫌がる体位で、澤村がもっとも好きな体位だ。
                   みずから受け入れるところをすべて見られるのが、水嶋にとっては恥ずかしくてたまらないのだろう。むろん、澤村にとってはそれが快感で、軽く揺すってやるだけで、ぬくっ、と大きく張り出した亀頭を飲み込んでいく水嶋の表情の変化をひとつも見落とすことなく、好き勝手にあちこち弄れるのも楽しい。
                  「あ……あ……ぁっ……」
                  「もうちょい、奥……まで」
                   長い時間をかけてようやく全部収めきったところで、はっ、と大きな息を吐いた。いつ、何度抱いても敏感な身体を、もっと追い詰めてやりたい。もっと狂わせてやりたい。もっともっと熱くさせてやりたい。
                  「……おかしくしてやりたいよ、あんたのこと。俺とはめっぱなしでいないと気ぃ狂うぐらい」
                  「……朗、……あ、……っ!」
                   かすかに笑いながらぐっと腰をひねり入れると、悲鳴混じりの声があがる。
                  「……いき、なり、うごく、な……っ」
                  「だからって、いつまでもじっとしてろっていうの? んな生殺し、勘弁してよ」
                   呟くあいだにも熱い襞がねっとりと絡み付いてきて、暴走しそうだ。
                  「でも……、朗、……あっ……あぁっ」
                   下から強く突き上げると、反論できなくなった水嶋が必死にしがみついてくる。その動きひとつで、もっと深く、もっと強い熱が待っている場所へ連れていかれる気分だ。
                  「あっ、あっ、あぁっ」
                   尻をきつく掴んで揺さぶり、奥まで怒張したものをねじ込んだ。ぬるりとしたしずくをまといつかせたそれで水嶋の身体の奥の奥まで犯し、肩にきつく食い込む指の強さに息を切らして笑った。それから、彼の背中を支えて一気に押し倒した。床にはやわらかなラグが敷いてあるから、水嶋が痛みに泣くこともない。
                  「……朗……」
                   伸ばしてきた指先に、くちづけた。
                   暖かな灯りの下、清潔なシャツも髪もぐしゃぐしゃに乱して両脚を拡げる男の仕草のひとつひとつが、どうしてこうも鮮やかに、淫らに映るのだろう。
                   冷めやらぬ熱を宿したくちびるを吸い取りながら、ずるく、ゆるく、きつく、腰を動かし始めた。根元までぐぷっと押し込み、互いのくさむらが擦れ合うぐらいの密着感に鼓動が駆け上がっていく。
                  「ん、ん――……ぁっ……」
                   ぐしゅぐしゅと音がこだまするほどに貫き、水嶋のそこが耐えきれずにひくついているのを見て扱いてやると、軽い呻き声とともに腕の中の身体が強くしなる。
                  「ぁ……、あぁ、っいきた……い、く、っ……っ」
                  「ん、……俺も」
                   びゅくっと吐き出す白濁で自分の肌をはしたなく汚すことに泣きじゃくる寸前の男を抱きすくめ、激しく突いて奥まではめ込んだまま、溜めていたものをどっとほとばしらせた。
                  「あ……あ……」
                   達したばかりの水嶋の身体が艶めかしくひくつき、ぞくぞくするような快感がどこまでも尾を引くようだった。長く、終わらない射精で男の身体の隅々まで濡らし、もう一度でも、何度でも辱めてやりたくなる衝動に駆られる。
                  「よかった?」
                  「……うん……」
                   ぼんやりと頷く水嶋の熱い頬をさすってやった。どうしても、どうしても笑いが抑えきれない。あんまりにも素直で、正直で、嘘がつけない男を抱いていて、さまざまな感情がふわりと煙のように浮かんでは消える。
                   ――いつまで、一緒にいられるんだろう? あんたは俺に飽きたりしないのかな? 面倒なことが起きて、俺たちが離ればなれにならなきゃいけなくなったりするときが来るんだろうか?
                   つかの間、胸に浮かんだ、名前のつけられない感情を悟ったかのように、水嶋が息を途切れさせながら、「朗」と呟いて手を掴んできた。その温もりに少し驚き、引き寄せられるままにした。たったいま、強烈な情欲を分かち合ったばかりなのに、その声はとてもやさしい。
                  「ずっと、一緒にいるんだろ」
                   言葉にしなくても、胸にある想いの方向は同じだ。そうとわかったら、やっぱり笑いたくなる。年齢も、キャリアも関係ないところでシンプルな想いを分かち合える相手が腕の中にいることに、心から微笑みたくなる。
                  「そうだね。ずっと一緒にいるよ」
                  「……うん」
                   背中に回された手のやさしさに応えるように、澤村は自分と同じように目縁をゆるませている男の頬にそっとくちづけた。額やくちびるに繰り返しくちづけていると、水嶋の中で再びむくりと硬さが増していく。そのことにいち早く気づいたのは、どっちだろう。
                  「いい?」
                  「……いちいち聞かなくても、わかってるんだろ」
                  「まあね」
                   まなじりを赤くして睨み付けてくる男の耳たぶを甘く噛むと、とても熱い。一度達したあとのさらなる快感を、水嶋ももうよく知っているはずだ。
                   形ばかりの抵抗を易々と抑え込み、「愛してるよ」と囁きながら動き出すと、「知ってる」と無愛想なふりをしようとして失敗し、掠れた声に、やっぱり笑ってしまった。


                   そんなふうにして、毎日はいつになく穏やかに過ぎていく。
                   澄みきった冬の晴れた日、ふたりが住む部屋の隅から隅までを掃除した最後には互いに盛大にくしゃみをしたところで笑い合い、風呂に入ってじゃれ、昂ぶる熱をいつまでも楽しんだ。時間も場所も気にせず、いたずらに触れ合うのは初めてかもしれない。何度抱き合っても、まだ知らない深みがある。そのことを指摘すると、はっきりとわかるぐらいに水嶋が顔を赤らめたので、からかうついでにキスをし、その先へと繋げていった。
                  「あー、とうとう今年も終わりかぁ」
                   大晦日の晩、すっかり綺麗に片付いたリビングで澤村はこたつにもぐり込み、のんびりとテレビを見ていた。右斜めに座る水嶋に、「お茶でも淹れようか」と聞くと、「うん」と返ってきたので、キッチンに立った。リビングにもキッチンにも、まだ、カレーのいい匂いが漂っている。一年の締めくくりに、「なに食べようか」と聞いたら、「おまえのつくるカレーが食べたい」と水嶋が言ったので、ひとつ腕をふるうことになったのだった。
                   ――カレーもそうだけど、お茶もそう。これと目をつけた女はどこの誰よりも先に落とすと豪語していた俺が、今年は三つ年上の男のためだけにこまめに世話してやっているなんて。
                   自分で考えてみても凄まじい変化に、苦笑いしてしまう。
                   だけど、満たされるから構わない。
                   精緻で美しく、誰も知らない楽しさをぎっしり詰め込んだゲームを生み出すことに精魂傾けている男の素顔をすぐそばで見られる冬休みは、まだまだ続く。
                   ほわほわと白い湯気を立てるケトルのそばにいるあいだにも、テレビからはカウントダウンのにぎやかな声が聞こえてくる。仕事でパソコンにかじりついているときとは違い、キッチンカウンター越しに見える水嶋の横顔は安心しきったもので、思わず微笑んでしまう。
                   彼の好みの温度で日本茶を淹れ、今日の日のために隠しておいたものを脇に挟んでリビングへと戻った。
                  「はい、お茶」
                  「ありがとう。……なんだ、これ」
                   カタン、とこたつの上に置いた四角い紙包みに水嶋は不思議そうな顔を向けてくる。そういう顔がとても好きなのだと、いまさらながらに気づいた。なにも取りつくろうことなく、自然とあふれ出す感情をずっと隣で見ていたいから、「開けてみて」とうながした。
                   お茶を一口飲んでから、水嶋がかさかさと紙包みを開け、やがて、声をあげて笑い出した。
                  「これ、いつ作ったんだ」
                  「休みに入る前。あとで飾ってもいい?」
                  「うん。じゃあ、初詣に行く前に飾るか」
                   四角いものを楽しげに弄りながら、水嶋は、ふふ、とまだ笑っている。
                  「先、越された。俺が年明けにでも作ろうと思ってたのに」
                  「せっかく新年を迎えるから、記念にと思ってさ。いまのと同じサイズで作ってもらったから、ちゃんとはまると思う」
                   水嶋が手にしている長方形の白いプラスティックには、「水嶋/澤村」と黒く彫り込まれている。
                   この部屋はもともと水嶋のもので、同居を始めたばかりのいまもまだ、表札は彼の名前だけだ。そこに自分の名前を加えてもらうことで、新しい年、新しい毎日を一緒に迎えたい。
                   こんなふうに他愛ない毎日がずっと続くように。
                   新しい年が来て、再び忙しい日々が始まっても、この表札がかかる部屋に戻ってくれば、ふたりきりの時間が待っていることを心から信じられるように。
                  「ありがとう、朗」
                   嬉しそうに表札をなぞる水嶋がもう一度礼を口にしたとき、ちょうどテレビでも新年の挨拶が始まったので、澤村は顔を引き締めて正座し、手をつく。水嶋も慌てて同じように手をついている。
                  「あけまして、おめでとうございます」
                  「今年も、どうぞよろしくお願いします」
                   かしこまった挨拶に頭を深々と下げたあと、顔を見合わせて吹き出した。
                   時間は昨日から今日へと滞りなく進んでいく。甘いキスをひとつしたら、互いに手を繋いで、寒い北風が夜空へと舞い上がる外へと出かけるのだ。
                   毎年、少しだけなにかが新しくなる年の初めを祝うために。
                   ふたりで紡いでいく時間の中に、いくつもの楽しさを見つけるために。
                   しあわせなスタートは、もう始まっている。


                  ドタバタと野望

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                    お茶会も間もなくというところでいろいろ慌てていますが、

                    7割ぐらいまでは準備できたので、あとは忘れ物がないかどうか確認するだけです。

                    うーん緊張する……ぴのこ:)

                     

                    なにはともあれ、しっかり準備して

                    万が一アクシデントがあっても乗り切れるようにしておきます!

                    お茶会に参加される方は、どうぞ会場まで気をつけていらしてくださいねハート

                     

                    このお茶会が無事終わったら、庭のあとにオフ会と称して

                    5〜10名のこぢんまりしたお茶会(ごはん会?)を

                    開けたらいいな〜という野望があります。来年の秋とか。

                    読者さんともっといろいろお話したいです。

                     

                    へへ、まずは11/11お茶会、そしてサイン会です。

                    どちらかにいらっしゃる方、どちらにも来てくださる方、

                    私が精一杯の笑顔で(前の晩めちゃ全身マッサージされまくってるはず)

                    出迎えますので、たくさんお話しましょうねkyu

                    お天気もきっと大丈夫なはずSMILY

                    気持ちいい秋晴れに恵まれますようにキラキラ

                     

                    ※拍手ぽちぽちありがとうございます! お返事です。遅くなって申し訳ございません……!

                     

                    10/20 19:27 大阪在住なので、お茶...さん

                    大阪、来年1月のインテに出る予定です! もしご都合がつきましたら、ぜひいらしてくださいね:)


                    劣悪な環境で恋は生まれる(オリジナル2009)

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                      「ちょっと、花沢さん、いつまでおにぎりの補充に時間かけてんですか。早くしてくれないと、客が来ちゃいますよ」
                      「あ、すみません。いますぐやります」
                       専用トラックから運ばれた新しいおにぎりに、新人バイトの花沢京がじっと見入っている。バックヤードから出てきた吉田強が苛々と声をかけると、花沢はようやく新しいおにぎりを棚に詰め始めた。そのもたもたしている動きを見るかぎり、コンビニのバイトは慣れていないのだろう。
                       ――三十歳過ぎのおっさんがコンビニのバイトか。丁寧な態度で言葉遣いもきちんとしてるけど、この時間帯に勤務してるってことはリストラされたか、もしくはこれからされるのか。
                       斜な目で見ながら吉田はレジに入り、二台のキャッシャーの中身をチェックする。冬の明け方、四時前後は客の出入りが少ないが、これがあと三十分もすれば、朝一番で仕事場に駆けつける客がおにぎりやら缶コーヒーやら菓子パンやら煙草やらを求めて殺到する。
                       だからといって、嵐の前の静けさを楽しむわけにはいかない。時間の隙を縫うように小さな店のあちこちを掃除し、欠けている商品がないかどうかチェックするかたわら、たまにやってくる客の動向にも目を配らなければいけない。
                       客が少ない時間帯というのは、言い換えれば危険度が増す時間帯でもあるのだ。二十四時間開いていて、いくばくかの現金がつねに置いてあるコンビニはせっぱ詰まった強盗に目をつけられやすい。
                       ついこの間も、同じ町内のコンビニが夜更けに刃物を持った男に押し入られた。幸い、店員には怪我はなかったものの、数万円の売り上げを奪われ、ちょっとした騒ぎになってしまった。どこのコンビニも朝夜問わず二人から三人、多いときでは四人以上の態勢で勤務しているが、二人だけの場合、片方がうっかり休憩に入っていたり、店の外で煙草を吸っていたりすると、とんでもない目に遭う。近所のコンビニ強盗も、もうひとりの店員が休憩中で、店の外でずっと彼女と携帯電話で喋っていたため、騒ぎに気づくのが遅れたらしい。おかげで、刃物で脅された店員は怖がって辞めてしまい、もうひとりの店員も責任を感じて辞めてしまった。
                       この不況時に、どこのコンビニでもつねに人員募集をしているのは、そういう理由もあるんじゃないかと吉田は思う。
                       週三日から、一日三時間でもオーケー。細切れのパートタイムにしては、コンビニは重労働だ。店の狭さに反比例して扱う品数は眩暈がするほど多いし、客がいっせいに詰めかけるときに手際が悪いと怒鳴られることもある。
                       だから、五日前に雇われた花沢に挨拶したときも、ぱっと一目で、――一週間保たねえだろうなと判断していた。二十五歳で、学生時代に柔道で鍛えてきた吉田はいかつい相貌と百八十五センチある屈強な体躯に恵まれ、たいていの客は威嚇できると自信がある。
                       しかし、花沢は細身で頭ひとつ低い。たぶん、百七十センチぎりぎりというところだろうか。地味目だが、よくよく見ると端整な顔立ちをしていて、しなやかな身体つきをしている。若干人見知りをする性格らしく、吉田と初めて顔を合わせたときもかなり緊張した様子だった。
                       十月の終わり、長袖のきちんとしたシャツにコンビニ専用の青いユニフォームを着た花沢は、何十個、何百個とあるおにぎりをきちんと奥のほうから詰めていく。その横顔をちらっと見ただけなら、まだ二十代といっても通用する若さだ。
                      『……え、花沢さんって三十二歳なの? 見えねー』
                      『よく言われるよ』
                       最初に交わした会話がこんな感じだったから、その後も目上、目下と妙に気遣うことなく喋った。だいたい、このコンビニにおいては吉田のほうが先輩格だ。
                      「もったいないよね、このおにぎり。賞味期限を一時間過ぎただけで廃棄されるなんて」
                       棚の上段、端から梅のおにぎり二列、鮭のおにぎり二列、おかかのおにぎり一列、たらこ、野沢菜のおにぎりも一列ずつ補充していく花沢が、売れ残ったおにぎりを手にしてぽつりと呟く。
                      「しょうがねえじゃん。そういう決まりなんだし、賞味期限切れのものを売って腹を壊す奴が出たら、花沢さん、責任取れんの? はい、手を休めないでどんどん補充。サンドイッチと麺類もあんだからさ」
                      「はい」
                       吉田の言い付けに従って花沢はさっき入荷してきたばかりのサンドイッチに麺類、サラダと棚に詰め込んでいく。だが、その視線は、廃棄処分にされる予定のおにぎりや総菜に釘付けだ。
                       彼がそんな目をしていたのは今日が初めてではない。思えば、バイト初日から残り物をもったいなさそうに見ていた。
                      「あのさー、花沢さん、ちゃんとメシ食ってる?」
                      「え? あ、いや、その」
                       食品類の補充がだいたい終わったところで、レジに戻り、おでんのつゆの温度を確かめながら聞いてみると、意外なほどびっくりされた。
                      「メシ、ちゃんと食えてないから残り物に未練タラタラなわけ?」
                      「そうじゃなくて……いや、そういう部分もあるけど……ただ、ほんとうにもったいないなと思って。いま、すごく不況でしょう。一日一食がぎりぎりってひともじつはかなり多いのに、こんなふうに一時間過ぎただけで処分するのって、なんか、需要と供給のバランスが取れてない気がして」
                      「だからって、自分がおにぎり食いてえ、とにかく米食いてえってコンビニに駆け込んだときに、サンドイッチしかなかったらガックリするでしょうが」
                      「そうだね。吉田くんの言うとおりかもしれない。僕はいつも読みが甘いから」
                       歳上の男のぽそぽそした声にいちいち機嫌を取っていられるかと思うが、二人しかいない状況で事を荒立てるのもどうかと思ったので、「ま、花沢さんの言うこともわからんでもないけどさ」と表面が半分乾いたはんぺんにつゆをたっぷりかける。
                      「でもやっぱり、賞味期限は大事なんだよ。三日も四日も新鮮なおにぎりがあったらそっちのほうが怖いじゃん。どんな強烈な防腐剤が入ってんのかってびびるよ。需要と供給が合ってないって花沢さんは言ったけど、入荷したぶん、残り物が多く出るのは俺らの責任じゃなくて、店長の見積もりが甘いのが責任。だから、辛気くさい顔してないで。なんかを可哀相たがりたいなら、レジ横にある災害募金に献金でもしたらどうですか。最近、世の中いろいろ大変なんだからさ」
                       自分でも口が悪いなと思ったが、花沢は黙って聞いていた。それから口元をほころばせ、「うん」と頷き、スラックスのポケットから小銭入れを取り出して、百円玉を一枚、募金箱に落とした。


                       毎週、月、水、金に吉田はコンビニのバイトに入る。そのうち、水曜は夜勤で、偶然にも花沢とコンビを組むことになった。週に一回しか顔を合わせないと言っても、水曜の深夜バイトはいまのところ花沢と二人きりなので、商品チェックや仕入れの際、それと客が来ないときにはとりとめのないことを話すようになった。一週間保たないかと危ぶんでいた花沢だが、思いのほか、粘り強く頑張っている。
                       七歳上の花沢は、外資系の大手証券会社に勤めているらしい。だが、未曾有の不況により、周囲がどんどんリストラされていくのを目の当たりにし、いつ自分も首を切られるのかと思ったら、いてもたってもいられなくなったようだ。
                      『万が一のために、少しでも稼いでおこうかと思って』
                       昼間はサラリーマンとして働いているから、コンビニでのバイトを深夜にしたのはそういう理由からとのことだった。
                      『でもさ、会社勤めのひとって、普通、本業以外のバイトは禁止なんじゃねえの?』
                      『うん。うちの会社でも禁止事項に入ってる。だから、内緒でやってるんだ。ここのコンビニは勤務先からだいぶ離れてるから、会社のひとが来る確率はかなり低い。……このことは誰にも内緒にしてほしい』
                      『ふーん、まあ、いいけど』
                       七歳上の男に頭を下げられ、『内緒にしてほしい』と言われて悪い気はしない。弱みを掴んだと言ったら嫌な顔をするひともいそうだが、バイト先でしか会わない人間のウィークポイントをひとつでも先取すれば、なにかと好都合だ。休憩時間を勝手に引き延ばしてバックヤードでだらだらしていてもいいし、面倒な商品搬入も花沢に押しつけてしまえばいい――という小狡いことをするのではなく、相手の弱みを知っているだけでも、吉田は楽しいたちだった。
                      「そういう吉田くんは? 大学生……じゃないよね」
                      「とっくに卒業してるよ。掛け持ちのバイトで食いつないでる。いまどきめずらしくもないフリーターってやつ」
                      「そうか、……大変だよね。先が見えないってのも、不安でしょう」
                      「べつに」
                       花沢の心配を一蹴し、吉田は雑誌コーナーの整理を始める。立ち読みが多い店なので、手前に並ぶ雑誌は表紙の端が折れたり、破れたりしている。
                       雑誌や漫画のたぐいを熟読している客を見かけると、たまにわざと、「すみませーん、ちょっと整理させてくださーい」と笑顔で割って入ることにしている。
                       おまえが読みふけっている雑誌はタダじゃねえんだよ、売り物だってわかってんのかこの野郎、と怒鳴りつけたくなるのはしょっちゅうだ。吉田自身、雑誌の中身をちょこっとのぞきたくなる気持ちはよくわかる。だが、図々しい客は本気で凄まじい。一時間も二時間もかけて、さまざまな種類の本を立ち読みし、挙げ句なにも買わずに満足して帰られると、タダ読み代ならぬ居座り代をぶんどりたくなるのだ。
                       とはいえ、そういう客が多くなったのも、世間の空気がどんよりしているせいだろうか。花沢の言うように、『先が見えない世の中、金を出さずにすむなら出しません』というひとびとが増えているのかもしれないが、吉田はそういう枠の中から飛び出したいとつねづね思っているのだ。
                      「先が見えないことの不安なんて、いくらでもあるでしょう。仕事でも人間関係でも。そういうことを考えて動けなくなるほうが、俺にとってはアホみたいに思える。やらないで後悔するよりは、やって後悔するのがモットー」
                      「すごいね。その若さでそこまで言い切れる強いひとってなかなかいるもんじゃないよ。……あの、なにか特別な訓練でもやってたの?」
                      「小学校からずっと柔道をやってたけど、それとこれは別問題でしょ。ただ、やりたいと思ったことをやらずにそのままにしておくのがもったいないってだけ」
                      「吉田くん、なにかやりたいことがあるの?」
                       普段、おとなしい男がめずらしく率直に聞いてきたことで、雑誌の整理を終えた吉田は手をはたきながら狭いレジ台に戻り、頭ひとつ低い花沢を見下ろした。
                      「……なに?」
                       堂々とした体格の吉田にじっと見つめられていることで、花沢はうろたえている。
                       びっくりしているが、怯えているわけではないことを感じ取り、吉田は軽く口元をほころばせた。さまざまなバイトを渡り歩いてきているせいで、それこそ多くの人間を目にしてきた。頑丈な体躯にふさわしい顔を持った自分と目を合わせるなり、なにも話していないうちから腰が低くなる奴は少なくない。相手の顔色を窺うのはコミュニケーションのひとつだとも思うが、意味もなく卑屈になられたり、挙動不審になられたりするのは困る。そういう意味では、花沢はそこそこ手応えのある相手かもしれない。
                       レジの中身を確認しながら、吉田は言った。
                      「俺がやりたいことは、強盗。ここにある金を全部奪って逃げる」
                      「え? 嘘だよね」
                       冊を数える吉田に、花沢が目を丸くしている。身を引かない度胸の良さも、案外いい。
                      「嘘だよ。本気で狙うならコンビニなんかじゃなくて銀行を狙うよ。ていうのは冗談で、ほんとうに俺がやりたいのは、世界一周旅行。そのために、あちこちでバイトして金を貯めてる最中」
                      「世界一周か……そりゃまた、スケールの大きい夢だね」
                      「そう? そんなでもないって。子どもの頃からの夢だったんだ。アジアからスタートして、ヨーロッパを制覇。余力があったらアメリカ方面も回る。長い人生のうち、たかだか二、三年、世界のあちこちを気ままに放浪するだけじゃん。費用だって、せいぜい、三百万か四百万ぐらいあればいいし。ひとつの会社に何十年も勤めることのほうが、俺にとっちゃスケールがデカすぎる。そういう意味じゃ、花沢さんみたいなちゃんとしたリーマンは尊敬するよ。気が短い俺には到底真似できない」
                      「そう、かな……ちゃんとしてる、かな……」
                       曖昧な口調で呟く花沢は、慣れた仕草で冊を数えている吉田の手に見入っている。
                      「僕には、そういうのがないな。毎日、生きていくのが精一杯で、夢も、目標もない。そういう人間でも、他人から見たら、ちゃんとしているように見えるのかな」
                      「花沢さん?」
                       最後のほうがうまく聞き取れなかった。うつむいた男の顔をのぞき込むと、レジ台の跳ね戸を開けて花沢が出ていく。
                      「ごめん、少し早めに休憩取ってもいいかな」
                      「あ、……うん、いいよ。どうせ客も少ないし」
                       時計の針は午前三時を過ぎたばかりだ。バックヤードに消える花沢の頼りない背中に首をひねりながら、吉田はため息をつき、キャッシャーの中身を数え続けた。
                       水曜の深夜にしか顔を合わせない男にも、それなりの悩みがあるのだろう。


                       月、水、金のコンビニ勤務の他に、火曜と日曜はビル警備のバイト、土曜は新宿二丁目にあるバーでバイトをしている。
                       毎週土曜、ゲイのメッカである二丁目界隈に足を踏み入れるたびに、ガタイのいい吉田はあちこちから、「ちょっと飲まない?」とか「時間ある?」「ひとりなら俺とどう?」「そこの公園でどう?」と誘いを受けるが、それらをすべて綺麗にかわし、「バー・キブラ」という小さな店の扉を押し開ける。
                      「おはよーん、ツヨシ。今日も早くからありがとう」
                      「おはようございます。耀子ママ、今日の賄いっておでんですか?」
                       バイトのバーテンダーよりも先に出勤しているオーナー兼ママに挨拶すると、粋な小紋に割烹着を身に着けた耀子ママが得意げにふふんと鼻を鳴らす。
                      「アンタ、いい鼻してるわね。昨日から自宅で煮込んでたのを持ってきたのよ。店の外と内側、ちゃっちゃと掃除したらごちそうしてあげる」
                      「わかりました」
                       専用の服に着替える前に手際よく店の外、内側と掃除し、テーブルのひとつひとつを曇りなく磨いていく。
                       キブラはいい男がそろう、ゲイ御用達のバーとして古くから知られていると聞いたが、吉田自身はゲイではない。たまたま、大学の先輩の友人の友人という遠い縁を辿ってきた、『ゲイバーで人手が欲しいって話があるんだけど、ゲイじゃない奴がいいらしいんだ。バイト料は結構いいってよ』という話に乗ってみただけだ。こういう仕事で、同性に興味がないほうがいいというのは、当然かもしれない。客にちょっかいを出されていちいち揺らいでいたら、話にならない。
                       とはいうものの、いい男がそろう店だということも、否定しない。耀子ママが顔で客を選んでいるという噂が噂を呼ぶのか、毎晩、個性の異なる男が集まり、そこここでグラスを片手に盛り上がっている。ただ酒を飲みに来るだけの客もいれば、出会いを求めている客もいるのだろう。いたってノーマルな考えを持つ吉田としては、男同士が身体を寄せ合う場面を初めて目にしたときはほんの少し驚いたが、まあ、ひとの数だけ愛情の形もあるんだろうな、という考えに落ち着いた。
                       まだ若いくせに、吉田の堂に入った構えは常連客の間でもひとしきり噂になり、勤め出して最初の一か月はひっきりなしに声がかかった。しかし、笑顔で、「ありがとうございます。でも、もう間に合っているので」と答え続けていたら、からかいめいた誘いはだんだんと減った。その代わりに、常連の中でもさらに凄腕の常連から話しかけられるようになった。
                       この晩も、十年以上キブラに通っている男がふたり、十分差で店に入ってきた。
                      「浅田さん、こんばんは。コートお預かりしましょうか」
                      「ああ、頼む。あと、強めのモスコミュール」
                      「かしこまりました。土曜に浅田さんが来るのって珍しくありませんか? たいてい、平日にいらっしゃると聞きました」
                       注文された酒をつくっている間、カウンターに頬杖をついて煙草に火を点ける常連客は浅田諒一という。メタルフレームの眼鏡が端整な面差しにしっくりはまる男で、大手出版社に勤めているとなにかの折りに聞いた。シャツにスラックスというシンプルなスタイルが映える男というのも、そうそういない気がする。
                      「いま、スゲエ忙しいんだよ。土日がない状態で働いてる。一昨日からずっと徹夜でさぁ……やっと今日、自宅に戻れるから、その前に一杯飲んでいこうかと思って寄ったんだ。なんだよ、土曜の晩に俺が来て迷惑か。安心しな。ツヨシみたいにこれぞ日本男児ってのは俺の好みド真ん中だが、おまえ、ノンケなんだろ。手は出さねえよ。……ノンケを相手にするのは暁ひとりでたくさんだっつうの」
                       語尾をぼやかす浅田の前に、「どうぞ」とグラスを差し出したときだった。店の扉が開き、「こんばんは、ツヨたん」と艶のある声とともに、凄腕の常連のもうひとりがやってきた。
                      「チカさん、こんばんは。今日はゼルダでのショウ、お休みなんですか?」
                      「うん、たまにはゆっくりしたくて、休みをもらったんだ。あ、浅田さん、こんばんは。結構久しぶりですよね、ここで会うのって」
                      「かもな。SMプレイヤーの人気は未だ衰えずってところか?」
                      「そりゃもう、奴隷の応募は引きも切らずで、さすがにきりきり舞いですよ。僕って人間はたったひとりなのにね」
                       優雅に笑いながらチカがスツールに腰掛け、「ツヨたん、僕も浅田さんと同じものを」と言う。
                       真面目そうな格好の浅田とは対照的に、チカという愛称でとおっている男は銀色のベリーショートというド派手にも程があるヘアスタイルで、切れ長の目にふっくらしたくちびるが色っぽい男だ。とろみのある上質のシルクシャツに革のパンツがよく似合う。その容姿を生かした仕事が、六本木にその名を轟かす男性専用のSMクラブ「ゼルダ」での調教師だ。チカは極まったS属性のトッププレイヤーとして、マゾヒスティックな男たちを夜な夜な虐げているらしい。わざわざ新宿まで足を伸ばして飲むのは、六本木では顔を知られすぎていてなにかと気を遣うと、以前彼が言っていた。
                      「あーあ、最近、どうしてこうもみんながみんな、簡単に奴隷になりたがるのかなあ……。誰かの命令に素直に従うことが即快感になるのって、浅田さんはつまらないと思いません? 少しは抵抗したほうがこっちも相手も楽しいのに」
                      「俺にはSM属性がないし、そもそもチカさんと一緒でタチのほうが好きだから、そういうことを聞かれても困るんだよ」
                      「ですよね。そのうえ、お互いにノンケの男にメロメロだし。正直な話、僕が生涯を懸けて躾けたい男はたったひとりしかいないんだけど、千宗の気の強さったら、ホントにもう……洒落にならない。今夜ここで勢いをつけて、自宅に戻ったら速攻千宗を犯す。本気で犯す。今夜は絶対に手を抜かない」
                      「ハハ、やる気あるじゃん。じゃあ、俺も帰ったら速攻、暁を押し倒す。死ぬまでに一回は絶対に上に乗ってやる」
                      「うわ、気が合いますね。じゃあ、乾杯しましょう」
                       出版社勤務の男とSMクラブ勤務の男が隣り合わせに座り、笑顔でグラスを触れ合わせているなんて、さすがは老舗のキブラだからこそ見られる絵なのだろう。
                       話に興じる常連たちに酒をつくり、合間にやってきた他の客の相手を冷静にこなしている時間が、吉田はわりと好きだった。同性だろうが異性だろうが、なんとなく他人の温もりが欲しい夜がある。それが即、性行為に繋がるわけではなく、目の前にいる浅田とチカのようにただ話をするだけで構わない、むしろそれでいいと考えている客は多いようだ。職場や学校以外に、気軽に話せる相手がどこかにいるだけで、ほっとするものなのかもしれない。キブラは建前上、未成年お断りの店だが、大学生ぐらいに見えればあまり文句はつけないことにしていると、耀子ママが以前、ひっそり呟いていた。
                      『男を好きになっちゃった以上、どうにもならない悩みが生まれるじゃない。そういう悩みが少しでもうちの店で薄れてくれたらいいなと思うしね』
                       他人には迂闊に言えない性癖を持った以上、閉ざされた空間では仲間意識が生まれるものなのだろう。他愛ない日常話に混ざって、誘ったり誘われたり、色気のあるやり取りをなんとはなしに聞いていると、また店の扉が開いた。
                      「いらっしゃぁい。おふたりさま?……奥のテーブル、ちょうど空いたとこだからどうぞ」
                       戸口付近のテーブルで客の相手をしていた耀子ママが、新客を奥へと誘う。吉田はそれをちらりと横目で確認し、手元のグラスに視線を戻したあと、弾かれたように顔を上げた。
                      「ツヨシ? どうした」
                      「ツヨたん、なに怖い顔してんの」
                       吉田のただならぬ気配に、浅田とチカが不審そうな顔をしているが、無言でカウンターを出て、入ってきたばかりの客がついたテーブルへと大股で歩み寄った。
                      「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか、花沢さん」
                      「……吉田くん!」
                       吉田の声にびくりと肩を跳ね上げたのは、水曜の深夜、コンビニでしか顔を合わせない花沢だ。
                       まさか彼がゲイだとは思わなかった。隣には、髭面のサングラスをかけた男が座っている。
                      「なんだよ、こいつと知り合いか?」
                       ――花沢さんよりかなり歳上の男が相手か。
                       花沢がゲイだということについてはどうこう言うつもりはないが、連れの趣味が悪いと言いたいのは余計なお節介だろうか。店に入ってきたときからこれ見よがしに花沢の肩を抱き寄せ、人目につかない奥のテーブルについたことで、さらにエスカレートし、胸をまさぐっているいやらしい男が花沢は好みなのか。
                       たぶん、耀子ママもこの新客は用心したほうがいいと咄嗟に判断したから、他の客の目に晒されることがなく、非常口にも近い奥のテーブルへと案内したのだろう。
                      「ご注文がお決まりでしたら、伺いますが」
                      「……あの」
                      「ビール持ってこいよ、ビール、もたもたすんな」
                      「かしこまりました」
                       横柄な物言いの男に頭を下げ、カウンターに戻るなり、慎重に様子を見守っていたらしい浅田とチカが、そろって顔を近づけてきた。
                      「ヤバくねえか、あのヒゲのほう。真っ当な筋じゃねえだろ。もう片方の男もどう見たってノンケだろ」
                      「僕もそう思う。無理やり連れ込まれたんじゃないのかな。どっちも、過去、ここで見た顔じゃない」
                      「じゃあ、直接聞いてみます」
                      「おっ、おい、ツヨシ! 待てバカ、早まるな!」
                      「名前どおり強気すぎだよ、ちょっと僕、惚れるかも……」
                       浅田とチカの制止を無視し、きめ細やかなクリーム状の泡を浮かべたグラスビールをトレイに乗せて、花沢のテーブルに運んだ。
                       ひそやかながらも、花沢の困惑した声が耳に飛び込んできた。
                      「……っ、やめてください、僕はそういうつもりじゃ……」
                      「なにいまさらなこと言ってんだよ。男とやりたいから、このへんうろついてたんだろ?」
                       衝立で仕切られたテーブルで、花沢と髭面の男が小声で言い争っていた。隅に押しつけられた花沢は大きな手で胸や股間をまさぐられ、顔を引きつらせている。
                      「違う――違います、そんなんじゃありません、ほんとうに違います」
                      「とにかく、ここで一杯引っかけたらホテルに連れてってやるから。どっからどう見ても犯してくださいって顔してんじゃねえか。だから声をかけてやったんだろ……っ、って、……てめえ! なにしやがんだ!」
                       聞くに堪えない言葉に、ふと気づけば、吉田はグラス一杯に注いだビールを髭面男の頭にザアッと浴びせていた。
                       頭からぽたぽたと滴を垂らした髭面男が、顔を真っ赤にさせて正面に立ちふさがる。
                       互角の体格かもしれない。まともにやり合えば、店が大混乱に陥るのは間違いない。だが、吉田は怯まずに一瞬の隙を衝いて相手の胸ぐらを掴み、非常口へと力ずくで押しやった。
                      「出ていってください。この店は、あなたのような方はお断りです」
                      「舐めた真似してんじゃねえ、俺を誰だと思ってんだ! 俺のバックには……!」
                      「うるせえな! 後ろ盾がなきゃなにもできねえ奴が粋がってキブラに来るんじゃねえよ! 他の店に行け!」
                       怒声とともに思いきり男を外へと突き飛ばし、頑丈な非常口をぱたんと閉じたとたん、それまで息を飲むような静寂に包まれていた店内が、どっと歓声に湧いた。
                      「ツヨシ、やるなぁ、おまえ!」
                      「ちょっとツヨシったら、アンタって子はもう……! 見てるこっちがハラハラしたじゃないのよう!もう、もう……、ホント、ありがとね」
                       剛毅な耀子ママがほっとした顔で抱きついてくる。
                      「すごいね、ツヨたん。男らしくて格好良かった。久しぶりにいいもの見せてもらいました」
                      「スゲエ迫力だった。柔道の黒帯って冗談じゃなかったんだな」
                       あちこちで拍手喝采が起きる中、吉田は、「迷惑かけてすみません」と頭を下げた。それから、放心している花沢に向かって、「大丈夫?」と声をかけた。
                      「あ、……うん、大丈夫、です。……ありがとう」
                       ようよう答えたものの、花沢は呆然としている。得体のしれない男に連れ込まれた先で、吉田に出くわすという突然の展開に脱力してしまったようだ。
                       小さくため息をつき、吉田は耀子ママに耳打ちした。
                      「このひと、俺の知り合いなんです。ちょっと心配だから、今日はこれで上がらせてもらえませんか。このひとを家まで送るんで」
                      「うんうん、わかった。大丈夫。ヒロシに連絡して、店に入ってもらうから。今日の武勇伝に免じて、タイムカードはちゃんとラストで押しといてあげる」
                      「すみません。ヒロシさんにもよろしく伝えてください」
                       先輩にあたるバーテンのヒロシに急に来てもらうのは悪いが、気のいいひとだから、事情を聞けば、きっと許してくれるだろう。
                       まだ惚けた顔の花沢を立ち上がらせ、乱れた服を整えてやってから店の戸口で客にもう一度頭を下げた。
                      「皆さん、お騒がせしてすみませんでした。お先に失礼します」
                      「いやいや、ツヨシに惚れた夜だったわー。また土曜にな」
                      「気をつけてな、そっちの新顔もまた来いよ」
                       笑いながら見送ってくれる客を背に店を出て、ふらふらよろける花沢の手を掴んで歩いた。土曜の夜だけにひとも多く、手を繋いでいないとはぐれそうだ。
                      「……吉田くん、ありがとう」
                       掠れた声が聞こえてきたのは、キブラを出て十分も歩いた頃だ。ゆっくりした足取りだったせいか、花沢の息遣いも落ち着いている。顔色もまともなものに戻っていることを確認し、手を離そうとすると、ぎゅっとくちびるを引き結んだ花沢が手を握り締めてきた。
                      「花沢さん?」
                      「ごめん、もう少しこうしていてほしい。……よかったら、そこの公園で少し休みませんか」
                       花沢が指差すほうに、小さな公園があった。繁華街からちょっと離れた場所にある公園で、灯りも少ない。
                      「ここ、ハッテン場だと思うけど、いいんですか」
                       ゲイではないが、ここらで働いている者としては知っていることをあらためて確認すると、花沢は頬をひくりと引きつらせるが、「……ちょっと、休むだけだから」と答えた。
                       答えた、ということは、ハッテン場という言葉の意味もわかっていることか、と内心複雑だ。
                       コンビニでバイトしているときの花沢は清潔でおとなしく、残り物のおにぎりやサンドイッチをもったいなさそうに見ているだけで、とてもじゃないが、男あさりをするようなタイプには見えなかった。
                       通りに面したベンチに腰掛けると、花沢が深く息を吐き出す。
                       うつむき、両手で頭を抱えて、「……ごめん、恥ずかしいところを見せて」と呟く花沢の横で、「べつに」と答えた吉田は足を組み、コートのポケットから煙草を取り出して火を点けた。
                      「……さっきの男は、たまたま声をかけられただけで、知り合いとかそういうんじゃない」
                       言い訳をするような声に、吉田は煙を吐き出す。
                       なにか鋭く尖ったものが胸を突き刺し、神経をささくれ立たせる。
                      「たまたま声をかけられた男に、胸や股を触らせるんですか」
                      「それはあっちが勝手にしてきたことで、僕が望んだことじゃない」
                      「でも、そういうことを期待して二丁目に来たんじゃないんですか」
                      「違う。たまたま、まぎれこんでしまっただけで……そういう吉田くんは? どうして吉田くんはここにいるんだ」
                      「俺は単なるバイトです。前にも言ったでしょう。世界一周をするために金を稼いでるって。ゲイバーのバーテンって、結構いい金になるんですよ」
                      「じゃあ、客に誘われることもあるよね」
                      「あるよ。でも応えない」
                      「なんで。どうして。吉田くんだったら選び放題でしょう」
                      「選べる立場だからって誰とでも寝るわけじゃないだろうが。なにバカなこと言ってんだよ、あんた。俺のこと、なんだと思ってんの?二丁目のバーで働いてるからって、男なら誰とでも寝るって思ってんの?」
                       苛立ちに任せて怒鳴りつけると、意外にも、花沢がきっとまなじりを吊り上げ、狙い澄ました視線を向けてくる。
                      「……もし、吉田くんが、男に目を向けてくれるなら、って思ってた。ずっと、そう思ってた」
                      「は? なに……それ」
                      「一目惚れ、したんだ。吉田くんに……コンビニで一緒に夜勤勤務するようになったときから、好きだった」
                       とても小さな声だったが、花沢のそれはきっぱりしていた。対して、吉田はいきなり始まった告白に呆然としていた。
                      「同性を好きになったのは生まれて初めてだから、どうしていいかわからなくて……吉田くんがそういう性癖じゃないってことはわかってたけど、僕自身も混乱していて、男を好きになるのってどういうことなんだろうとか、抱かれてみるとしたらどうなるんだろうって考え続けてたら頭がおかしくなりそうで、そういう性癖を持つひとが集まる二丁目に来て、もうとにかく誰でもいいから」
                      「ちょ、ちょっと、待てよ。落ち着けよ。あんた、俺に惚れたっていま言ったばかりだろ。それがなんで急に誰でもいいってことになるんだよ」
                      「僕だって冷静に判断できないよ。だいたい、男を好きになった自分自身もどうかと思ってるんだよ。普通、男は女を好きになるもんでしょう。なのに、なんで同性を好きになってんだか。だから、こんなめちゃくちゃなことになってるんじゃないか」
                       肩で息し、強い語調で言い切った花沢に、日頃、めったなことでは動揺しない吉田もさすがに言葉に詰まった。
                       なにをどう言えばいいのだろう。煙草を吸うのも忘れて、花沢の横顔を見つめ続けた。どんなに言葉を尽くそうとも、バカバカしい展開になりそうだということは間違いない。
                       おとなしいと思っていた花沢がこんなにもいっぺんに喋るとは思っていなかった。キレると怖い相手だったのだろうか。週に一度しか顔を合わせていないのに、どうして自分なんかに惚れるのだろう。
                       同性を好きになってしまった花沢も自分自身を持て余し、ぎりぎりまで思いつめた挙げ句に、二丁目にやってきてろくでもない男に引っかけられるなんて、正気の沙汰じゃない。
                      「……俺のどこを好きになったの」
                       根元まで赤く染まった煙草を踏み潰し、新しい煙草に火を点けて深々と吸い込んだ。すると、花沢はちょっと微笑み、「……煙草、僕にもください」と言う。
                       思う存分逆ギレしたことで、すっきりしたのだろうか。いま見た笑顔は、とても自然で、可愛かった。
                       煙草を渡し、咥えたまま火の点いた先端を近づけると、花沢も顔を寄せてくる。仄かな灯りで浮かび上がる横顔につかの間見とれていると、花沢がふぅっと煙を吐き出す。
                       歳相応の品格と可愛さが絶妙に混ざった顔で、花沢は慣れた仕草で煙草を吸う。コンビニで商品をもたくさ扱う垢抜けない印象と、いま目にしている洗練された印象とのギャップから目が離せない。
                      「花沢さん、スモーカー?」
                      「ううん、ずいぶん前にやめた。でも、吉田くんがおいしそうに吸ってるから我慢できなくて。……ごめん、僕、ずいぶん変なことを口走ったね。迷惑かけてごめん」
                      「謝るのはとりあえずあとにして。俺のどこが好きになったのか、まだ答えてないよ」
                      「そういう、若いところ。まっすぐなところ。世界一周をしたいって大きな夢を素直に口にできるところ。あれを聞いたときに、いいなと思ったんだ。自分のやりたいことに迷いがない吉田くんが格好良く見えた」
                      「それで、惚れたの? そんなことで?」
                      「そんなことで惚れたんだよ。僕には夢も希望もないし、ついでに言えば職もなくて、一昨日からは部屋もない」
                      「え、……でもあんた、証券会社に勤めてたんじゃないっけ」
                      「三か月前までね。ごめん、じつはいくつか嘘をついてた」
                       手足をぐうっと伸ばし、煙草をおいしそうに吸う花沢はスーツ姿で、ネクタイの結び目もきちんとしている。髭面の男と揉み合ったあと、無意識に身だしなみを整えていたのだろう。
                      「ほんとうの僕は、現在、定職に就いていません。三か月前に急にリストラされて、いまはきみと一緒のコンビニとスーパー、あと、書店でバイトをしています。貯金も少しはあるんだけど、一昨日まで住んでいたマンションの家賃が払いきれずに部屋を出ました。新しい仕事に就くためにハローワークにも通っていますが、なかなか難しいです。でも、とりあえず次の新しい仕事に就けたとしても、なんのために稼ぐのか、もうわからない。会社からいきなり切られた時点で、僕自身、なんのために生きてるのか……ちょっとわからなくなった。誰にも必要とされてない気がして」
                       よどみなく喋った花沢はひと息ついて、また喋り出す。一方的な話を聞かされている吉田が眉をひそめたり、驚いたりしている様子に気づいていないわけではないだろうが、――とにかく喋ってしまいたい、誰にも打ち明けられなかった胸の裡を一気にぶちまけてしまいたいという勢いに負けた。
                      「誰にも必要とされない日が来るなんて、いままでに一度も考えたことがなかった。リストラされる瞬間までね。僕がいたのは外資系の企業で、数年勤めているうちにもっといい条件の勤務先を探すのが当たり前のところ。だから、日本人らしい考えにある、『終身雇用』とか『同僚』っていう意識はみんなほとんどなかった。一定期間、互いに力を貸していかにして効率よく金を稼ぐか、その方法を生み出すドライな関係でしかなかった。もちろん、僕もそれでいいと思ってた。違うと気づいたのは、首を切られたあとだったから遅いけど。……ほんとうは誰かを信じてみたかった。自分以外に信頼できて、好きになれる誰かが欲しかった。そういう弱さに気づいたのも、会社を辞めたあとだからとっくに遅いんだけど」
                       吉田に言葉を挟ませず、花沢はまっすぐ正面を向いたまま喋り続けている。ずっと遥か後方に置き去りにしてきた過去を語るにしては、ずいぶんとちぐはぐな印象だ。
                      「おまえはもう要らない。必要ないから出ていけ。戦力にならないから辞めろ――リストラされた直後は、世界中からそんなふうに言われている気になった。いままでの僕は誰もが羨む学校をいい成績で卒業して、会社でもつねに上位に食い込む成績を誇ってた。なのに、ただ一回、取り引きに失敗しただけで辞めろと言われたんだよ。『あんたのやり方はもう古いんだよ』って、一回り下の後輩に嗤われて……死のうかなって、その夜初めて思った……」
                      「……でも、死ななかったんだろ」
                      「うん、でもしょっちゅう頭にあった。もういつでもいいや、いつ死んでもいいって。会社帰りに電車に飛び込もうかとも思ったんだけど、そのときは周りにいる、自分と同じような疲れた顔のサラリーマンやOLさんを見て、迷惑をかけちゃいけない気がして。なんかね、自分でも変だと思うんだけど、億単位の金を堂々と動かしてたくせに、いざとなったら及び腰になるんだよね。あれだけ大きな額の金を動かせていたのは、結局、他人の金だからだったんだと思う。でも、いざ、自分の命をあっさり捨てようかと思うと怖くなる。僕がどんなことにつまずいて、なにに思い悩んで死のうとしたか、誰にも知られないままなんだろうかと思ったら寂しかった。……そんなときにさ、世界一周がしたいなんて夢みたいなことを言う吉田くんに会って、驚いた。いまどき、小説や映画の中にしか出てこない夢を実現しようとしているひとには初めて会ったから。それまで僕の周りにいたのは、目先の儲け話に必死になっている奴ばかりだったから――もちろん、僕もそのひとりで……なんか、気が抜けて……吉田くんみたいに子どもっぽいことを真面目に実行しようとしているひとがほんとうにいるんだってわかったら、いいなって、……憧れて、羨ましくなって……そのうち、本気で目が離せなくなって……吉田くんが次になにをするのか、気になって気になって仕方がなかった。それで、やっと僕自身、認めた。吉田くんに惚れてるんだって」
                       バカだよね僕はほんとうに、と笑う声が青ざめた都会特有の夜空に虚しく響く。
                      「いまでもたまに、ああ、死んじゃおうかなって思うときがある。べつに、すごく思いつめた結果じゃなくてさ……もういいか、このへんで終わらせようかって気分なんだよ。なんて言えばいい? これまで仕事だけに専念してきて、恋人も友人も自分ひとりきりの想い出もろくにつくらないで、金勘定ばかり意識して、もっと先の自分の将来をまったく想像してなかった僕自身が一番悪いんだってことを、リストラと同時に知ったんだ。僕はね、入社当時、一番の成績だったんだ。だから、会社は僕を裏切らないと思ってた。三年単位で人員が入れ替わる外資系でも、僕はしぶとく生き残ってきた。だから、いつの間にか勘違いしていた。一生懸命に仕事をしていれば、いつかはいいことがある、絶対にしあわせになれるって根拠のない思い込みをしていたんだ。――いつから僕は、こんなに空っぽな人間になったんだろう。いつから、こんなバカになっていたんだろう」
                       淡々とした声だった。
                      「――コンビニでさ、賞味期限が一時間過ぎただけのおにぎりやサンドイッチが捨てられるのを、僕がもったいながってたこと、覚えてる?」
                      「覚えてるよ。花沢さん、毎日毎日、しつこく見てたもんな」
                      「あれ、たぶん食べても平気だよ。もったいないって本気で思ってた。そりゃ神経的にダメだってひともいるのはわかるけど、たった一時間であっさり捨てられるものがこんなにたくさんあるんだってことを目の当たりにして……人間にも賞味期限があるんだって初めて実感した。食べられる時間が過ぎたら捨てればいいって、周りに思われてたんだよね。僕自身が気づかなかっただけで」
                       順調な人生のレールからふいに突き落とされたおのれを嘲笑うのでもなく、恥じるのでもない。そういった感情をすでに越え、完全に醒めきった声というのを吉田は初めて聞いた気がする。
                       世界一周の夢に向けてがむしゃらに働いてきた自分にはまったくない深淵を、花沢はこころの奥深くに隠し持っている。
                       彼には彼なりの目標があったのかもしれない。しかし、ただひたすらに走ってきた道が行き止まりだと唐突に知らされ、こころの一部が崩れたのかもしれない。
                       ――だから、世界一周する夢を持ち続けている俺に惚れたのか。方向転換もきかないアホなのか。
                       大人になればなるほど、傷の治り方が遅くなるという。
                       花沢もそうなのかもしれない。三十代で初めて大きな挫折を経験し、職も住み処も失い、とりあえずは生きていくための最低限の仕事はするけれど、もう楽しい夢は二度と見られない。見たくても、あえて見ないのかもしれない。べつの方向へと思いきり跳躍するための勇気を失ってしまったのかもしれない。
                      「僕が必要だと誰かに言ってほしい。僕自身も誰かをこころから愛して、そのひとが望むことをできるかぎりしたい。三十二歳にもなって言うことじゃないけど……ひとりきりなのは寂しい。誰かと一緒にいて、叶わなくてもいいから、夢を語りたい。喧嘩もしたい。仲直りもしたい。仕事ばかりでそんなこと、いままでに一度もしてなかったから、いまからでもやってみたい。たとえば同じものを見て、違う意見を出し合ってぶつかって、尊敬したい。揉めてみたい。自分とはまったく違う他人を愛したい。そうすることで、僕自身、いまからでももう少し変われるような気がするんだ。……ほんとうに、ただの気のせいかもしれないけど」
                       夜空を見上げる花沢が、願い事のように呟く。
                      「ここまで言ったんだから、もう我が儘剥き出しで言うよ。もし、ほんとうに死ぬことになったとき、僕は初めてこころから大好きになったなひとに見送ってほしい。ずっとずっと忘れないでほしい。たくさん泣いてほしい。時間が経って忘れかけても、たまに僕を思い出して泣いてほしい。僕はそれ以上にそのひとを愛して、この世から身体がなくなっても、ずっとずっと……ほんとうにずっと想い続けるだろうから。そのひとが僕以外の誰かを愛して生き続けていくのは寂しいけど、こころのどこかに僕を刻んでくれているなら、もうそれでいい。最期の瞬間を、誰かに笑顔で見届けてほしいんだ」
                       まことに幼稚で正直すぎる本音、あるいは狂気の欠片を、吉田は黙って聞いていた。
                       夢は、叶えるために存在するものなのだと誰かが言っていた。しあわせなことよりも、つらいことの多い世界で生き延びるための術として、神様が人間に、叶うようで叶いそうにない夢を見る幸福感と絶望感を持たせたのだと言っていたのは、キブラの常連である浅田だったか。けれど、けっして叶わないからこそいつまでも見続けられる楽しい夢もあるんだよ、苦痛や絶望を味わわされるばかりだったら人間はとっくに滅びてるでしょう、と鷹揚に笑っていたのは、やっぱり常連であるチカかもしれない。
                      「……ごめん、ホント喋りすぎた」
                       声が嗄れた花沢が、両頬を押さえてうつむく。
                       大人にしては頼りなくて情けない姿を一瞥する自分がいますべきことは、煙草を吸い終えて颯爽と立ち上がり、なにも聞かなかったような顔で、「じゃあまた、コンビニで」とさりげなく手を振り、この場を去ることだけだ。
                       そうすれば、面倒な荷物を背負うことなく、花沢という人間とも単なる通りすがり、数多く経験してきたバイト仲間のひとりとして、いつしか顔も声も記憶の底に埋もれて忘れていくはず――なのに。
                      「……吉田くん?」
                       煙草を吸い終えたのは、花沢のほうが先だった。その空いた右手を、吉田は強く掴んでいた。
                      「俺のこと、いまでも好き? もしかして、俺が初恋?」
                       低い問いかけに、花沢が目を瞠る。なにも返ってこない。だけど、口元がなにかを言いたそうにわなないていた。
                      「俺のこと、ほんとうに好き? 最期の瞬間を見届けてほしいぐらいに、真面目に好き?」
                      「す……好き、じゃ……」
                       ない、と言おうとした花沢を制した。
                      「好きって言いなよ。さっきみたいに、俺のことが好きって言いなよ。一目惚れしたんだろ。いまでも惚れてるんだろ」
                      「なんで……、なんでそんなこと言うんだよ……」
                      「わかんねえよ。でも、俺に夢中になっている間は、あんたは空っぽな人間じゃない。相当バカなのは間違いねえけど。俺に惚れ続けている間に、花沢さん自身、本気でやりたいことが見つかるんじゃねえの。そういう生き方があったっていいじゃん。とりあえずいますぐ死ぬ気がないなら、しばらくは俺に依存してなよ。俺はべつにそういうの、嫌じゃないし。花沢さんだったらいいよ。あんたみたいに気が狂ってるような異常なほどの寂しがり屋って、初めて会ったからおもしろい。俺を本気で好きなのか、単に世界一周に目が眩んでるのか、それとも花沢さんが自分自身を好き過ぎておかしくなってるのか、よくわからないところもおもしろい。あんた、醒めたことをずいぶん言ってたけど、ひとつでもいいから叶えたい夢を欲しがってるんだと思う。それがどんなものかいまの俺にはわからないけど、実際に探してみる価値はあると思うよ。この際、歳がどうのこうのとか、体裁を気にするのは止めにして、自分の気持ちに正直になることを選んだら? 花沢さん自身の頑固な鎖がとけたら、いまよりもっと楽になれる気がする」
                      「吉田くん……」
                       突拍子もない言葉に、花沢は絶句していた。しばらくしてから、やっと声を絞り出した。
                      「……きみ、バカなの?」
                      「あんたに言われたくない」
                       むっとして顔を見合わせた。いまにも目の縁から涙がこぼれ落ちそうな花沢が鼻を啜ったのと同時に、盛大に吹き出した。思いがけない明るい笑い声に、吉田も一瞬目を瞠ったが、少し遅れて一緒になって笑った。
                       肩が触れ合ってじんわり温かい。見栄もなにもあったもんじゃない歳上の男の素直な泣き笑いを見つめ、惹かれて、顎を掴むと、花沢がひくんと身体を強張らせて真顔に戻る。
                       そのすれていない感覚がやっぱり可愛いと思えたから、自分の勘を信じて、吉田くん、と押し止める声を無視し、黙ってくちびるを重ねた。
                       互いに定職に就かず、歳の差もあるうえに、男同士だ。それに、なにかと言うと死ぬ死なないと縁起でもないことを口にする相手を好きになろうとは、自滅行為もいいところではないだろうか。
                       だが、こういうのも巡り合わせのひとつかもしれない。
                       見た目も性格もよくて、将来になんの不安もなしという相手に、吉田はかつて一度もこころを揺り動かされたことがない。世界一周を目指しているのだって、自分が目にしたことのない景色や耳にしたことがない言葉に身を浸してみたいからだ。言葉が通じないもどかしさも味わってみたい。懸命のボディコミュニケーションで渡り歩けるだろうかという自分の底力を試してみたいところもある。
                       つまるところ、日めくりのカレンダーをめくるように、いつでも新鮮な気分を味わっていたいのだ。
                       ――俺自身、自分が考えている以上に貪欲な性格なのかもしれない。だったら、底が見えないほどの愛情に飢えている花沢さんを好きになるのは正しいのかもしれない。どこかトチ狂ってるこのひとがどこまで俺を愛してくれるのか、俺は俺でそういう奇妙なところにどこまで惹かれるのかわからないからこそ、この恋にトライする意味はあるんじゃないだろうか。
                       さまざまな考えを瞬時にふるいにかけ、一般的な常識も根こそぎふるい落とし、最後に残ったのは純粋な好奇心だ。
                       将来がどうなるかなんてまったくわからないまま、ただ、ひたむきに好きになってみる。
                       それが、吉田の選んだ答えだ。
                       こういう恋の始め方もあるのかと思ったら、内心可笑しくてたまらなかった。


                      「……あの、吉田くん、いきなりする?」
                      「花沢さんが嫌なら、やめるけど。じゃあ、途中までにしとこうか」
                      「うん、……あの、すみません、気を遣わせて」
                       緊張しているのか、花沢の声がどんどん小さくなっていく。
                      「あ、でも、嫌じゃない。ごめん、言い方が悪くて……ただ、ほんとうにこういうのが初めてだから、いきなり最後までするのはちょっと怖い」
                      「まあ、そうかもね。俺も男に触れるのは花沢さんが初めてだし。とりあえず、今夜は互いの身体がどういうものか確かめて、簡単に触るだけにしておこうか」
                      「……うん。いまさらだけど、吉田くん、度胸があるね」
                      「それしか取り柄がないから」
                       苦笑いして、吉田はベッドに組み敷いた花沢の熱い耳たぶにくちづけた。
                       あのまま公園で抱き合うのはさすがにどうかと思ったので、キブラから一駅離れた自宅アパートに連れ込んだ。六畳二間の古びたアパートだが、頑丈な造りのせいで、隣室の物音が聞こえてきたためしがない。
                       慣れていない同士、たったいまから恋愛関係を始めようというなら、いきなり身体を深く繋げるという無茶をしでかすよりも、思春期のようにまずは手を繋ぎ、ためらうようにキスを試みて、少しずつ確かめ合うのが正しいかもしれない。
                       浅いキスにたどたどしく応える花沢の反応に気をよくし、少し色気を出して舌を絡めてみた。同性だとわかっていても、くちびるの熱っぽさはかなりのもので、つい気をゆるめると一気にがっついてしまいそうだ。
                      「……ん……」
                       火照るくちびるを押しつけてくる花沢が、おずおずと首に両手を絡めてくる。その仕草もやっぱり初々しくて、「花沢さん、可愛いね」と言うと、シャツの襟元からのぞく花沢の首から額まで一気に真っ赤に染まった。
                      「吉田くん、男の相手は初めてでも、かなり経験があるでしょう」
                      「そこそこあるよ。でも、節操がないわけじゃないと思う。いままでセックスしてきた相手は、どれもみんな、どこか可愛いところがあったから」
                      「僕にも、そういうところがあると思うわけ?」
                      「そうじゃなかったら、こうなってないと思うけど」
                       ジーンズを硬く盛り上げる塊に花沢の手を押しつけると、声にならないせっぱ詰まった息遣いが返ってきた。
                      「とりあえず、直接触るのは大丈夫?」
                      「……うん」
                      「じゃあ、擦ってもいい? マスターベーションっぽいけど、互いに触れて気持ちよかったら、とりあえず良しとしよう」
                      「あの、あまり、はっきり言わなくていいよ。恥ずかしいから」
                      「なんで。花沢さんが怖がらないように確かめてるだけなんだけど」
                      「おもしろがってるとしか思えない、けど、……ぁ……!」
                       このぶんじゃいつまでも埒が明かないから、もがく花沢のシャツを軽くはだけて、平らな胸を凝視した。
                       大丈夫だ。いまのところ、気が削がれる気配はない。それどころか、男にしてはなめらかで綺麗な肌に見とれ、ひんやりした空気に晒されてぷつんと尖った乳首に興味をそそられて指で弄り回すと、あ、あ、と花沢の息遣いがしだいに狭まっていく。女と同じように、男の胸も時間をかけて愛撫すれば、ふっくらとした熱を持ち、感じるようになるのだろうか。
                      「……っいや、だ、それ……なんか、変な感じ、する……」
                      「変な感じっていうことは、結構いいのかもよ」
                       くりくりと根元からこよりのようにやさしくねじり上げ、指の腹で押し潰した。それだけ色づく胸が妙に色っぽい。男の真っ平らな胸に欲情する自分が可笑しく思えた。やわらかな女の胸は視覚的なものだけでもそそられるが、男はシャツを脱がせ、なめらかな肌触りを確かめてみるまでわからない。うっすらと汗を滲ませた平らな胸でぷつんと赤く尖る花沢のそこを存分に舐め回し、歯を突き立ててみたかったが、最初から貪るような真似をしたら、それこそ花沢が本気で怖じけるかもしれない。
                       頭に血が上りそうなのを抑えつつ、硬くしこる乳首をしつこく弄り続けた。いつか、もっと時間と余裕があるときに乳首を重点的に責めてやりたい。
                      「ん……っん……っ」
                       腰をよじらせる花沢が声を殺している様子に誘われて、スラックスのジッパーを下ろしてやった。それから、自分のジーンズのジッパーも下ろし、互いにぎちぎちに昂ぶった性器を剥き出しにさせて触れ合わせると、ぬちゅりと淫らな音が響く。
                      「……今日は全部脱がないで、擦るだけにしとくか」
                      「ん、……うん、そのほうがいい、かも」
                       自分も花沢も声が掠れたのは、けっして生々しい男同士の行為に腰が引けたせいではない。
                       ――こんなに感じるとは思わなかった。ちゃんと順序を踏まないと、本気でヤバイことになる。毎日毎日、セックスすることしか考えられなくなるかもしれない。ことのひとも、俺も。だから焦らないで、少しずつ進めたほうがいい。
                      「……そうじゃないと、破滅するかも」
                      「うん……あ、……あっ、……あっ」
                       シャツもスラックスも半端に脱いだ格好の花沢が背中をしならせる。勃ちきった互いの性器をまとめて、吉田がゆるく扱きだしたせいだ。
                       同性の性器を掴んで擦り合わせ、微弱な皮膚の震えさえ感じ取って昂ぶっていく自分が、いまさらながらに信じられない。花沢の手を掴んで、「あんたも触って」と言うと、息を飲む気配とともに、筋が浮き立つ肉棒に指が絡み付いてくる。どちらのものともわからない先走りがあふれ出し、とろりと手を濡らしていく。それが気持ち悪いとも思わず、身体の奥からあふれ出すような衝動に押されて、ずりゅっ、ぬちゅっ、と淫猥な音が響くほどに互いの性器を押しつけ、腰を揺り動かした。
                       本物の交わりとはほど遠いが、いまはこれでいい。肌の一部を晒して触れ合い、キスすることも許せる。
                      「――ぁ……っ!」
                       無防備に綺麗な喉を晒してのけぞる花沢の頭を掴み、深くくちづけた。舌先を絡めてきつく吸い取った瞬間、くぐもった声を上げて花沢が熱を弾けさせる。
                      「ん、ん……」
                       手の中にあふれた白濁を愛おしく感じて、吉田も息を詰めてぐっと背中を丸め、射精した。花沢のそれよりもとろみが濃く、量も多い精液で肌を濡らしてやり、最後には互いのものを混ぜ合わせて指先に移し取り、舐め取った。
                       絶頂の余韻にぼうっと浸る花沢のくちびるにも濡れた指を押し込むと、少し驚いた顔をしたあと、ちろりと舌がためらうように巻き付いてくる。
                       その躊躇した感じが、とてもいい。これから何度も何度も身体を重ね、深いところまで知っていく甲斐がありそうだ。
                      「気持ちよかった?」
                      「……おかしくなるかと思った」
                      「これぐらいで? ま、いいか、あんたの身体がどう変わっていくのか、俺しだいだもんな」
                      「そう簡単に変わらない。僕は一応これでも三十を過ぎていて、そんな簡単なことじゃ……」
                      「変わりたいって言ったのは、あんたでしょうが」
                       揚げ足を取られて耳たぶを赤くさせる花沢にもう一度キスして、吉田は微笑んだ。
                       スローな感じで、もったいぶった触り方を続けていくうちに、互いにどうにも堪えきれずに一線を越えてしまう日が来るかもしれない。たぶん、間違いなく来る。
                      「……なに笑ってんの」
                      「なんでもない。内緒」
                       どっちからどんな形で誘うのかと考えているだけでもいまは楽しいから、勢いに任せ、理性を吹っ飛ばして互いに貪り合うのはもう少し先にしておこう。


                       簡単に触れ合うだけの情事でも、花沢にとってはきわどいものだったらしい。事後、シャワーを浴びたらすでに眠そうな顔をしていたので、「今日は泊まっていきなよ」と引き留めた。明日の予定を聞いたら、休みだという。自分もちょうど休みだから、ゆっくり眠って、起きたらなにか食べさせてやり、気分が落ち着いたところで今後どうするか話し合ってみるとしよう。
                      「……とりあえず、一緒に暮らしてみるか。住む部屋もないって言ってもんな」
                       恐縮するように、狭いベッドの端で身体を丸めて眠る花沢の姿に、吉田は頬をゆるめた。
                       花沢の思いがけない告白で、意識していなかったこころの奥底に閉じ込めていた箱の蓋が開いた気がする。
                       ほんとうに欲しかったものが手に入った気がする。
                       誰かを愛することに花沢はいたく執着しているようだが、一度も、「安心したい」とは言わなかった。そのことが、吉田を強く惹きつけたのだ。
                       どこをどう探しても、真実の安らぎなどない。もし、それがほんとうにあるとしたら、他人から与えられるものではなく、自分自身との闘いに疲れ果て、どうにもならない現実と折り合いをつけねばならないときだけ、一生に一度だけ使える、おまじないのようなものだ。
                       けれど、吉田はそんなものはいらないと思っていたし、花沢もどうやらそうらしい。
                       みっともないほどにあがいているとわかっていても、欲しいものは欲しいとこころから叫べ。叶いそうにない夢を一度手にしたなら、声をかぎりに望みを口にしろ。それを聞き届けてくれる暇な神様がどこからかまぼろしのように現れるか、力尽きて諦めることをみずから受け入れる日が訪れるほうが先か、それこそ蓋を開けてみなければわからないことだ。
                       どちらにせよ、黙っておとなしくしていることなんかできないことを自分も花沢も知っているのだ。
                       誰もがこころにそっと隠している真実を、花沢は見事にみずから暴いて見せた。そんな男に惹かれ始めている自分もどこかいかれているのかもしれないけれど、花沢とちょうどよく釣り合いが取れていると思うから構わない。
                       小説や映画の中で描かれるような美しいハッピーエンドを放り投げて、互いに探り、疑い、ときには本気で爪を立ててこころを抉り、血を噴き出させたことに後悔し、キスで慰め合う。それからまた、闘争心がかき立てられた頃に互いのこころがどこにあるのかとうろうろと獣のように探り出す。
                       それこそが、吉田がずっと欲しかったものだ。けっしてけっして、自分だけのものにはなり得ない他人のこころを追い続ける焦燥感と楽しさが欲しかったのだ。
                       誰からも認められ、祝福される関係なんかいらない。花沢と自分のふたりきりしか知らない想いの深さを、身体のいたるところに刻みつけ、その痕跡をふたりだけで見つける楽しみに浸りたい。
                       終始花沢を意識しながらも、いつかほんとうに世界一周の旅に出かける準備が整ったら、そのとき自分はどうするのだろう。『いつか帰ってくるから』と守れない約束を交わして単身旅立つのか、それとも花沢も一緒に連れていくのか。思い描く未来はまったくもって白紙で、不安定で、だからこそ胸が躍る。
                       ――そのほうがずっとおもしろいじゃないか。楽しくて、いつまでも新鮮だ。
                       こころ温まるハッピーエンドを潔く放棄すれば、永遠に鮮やかなままでいられる。愛しすぎておかしくなるなら、いっそそれもいい。
                       安らぎは約束できないけれどいつも新しくてみずみずしい、峻烈ながらも永遠の恋が始まる世界へ、ようこそ。
                       けっして抗えない蠱惑的な甘い声がどこからか聞こえてくる。
                       吉田は背中から花沢を抱き締めて微笑み、目を閉じた。
                       ここからが、最初の一歩だ。



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