ボタンをはずして(「黒い愛情」番外編 2006)

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    「先月行った外貨運営部の意識調査をまとめてみましたが、三十代から四十代にかけて仕事に対する不安を抱えている方が多いようですね」
    「やっぱりそうか……。最近、どうも彼らの士気が下がっている気がしてね。こういうのは早めに手を打ったほうがいいと前に聞いたもんだから、あなたたちにお願いしたわけです」
    「適切な処置だと思われます」
     手元の書類をぱらぱらとめくる加藤は冷静そのもので、五十代後半と思しき上司を前にしてもまったく動じない。
    「私と伏見さんとで個人面談も行ってみましたが、二十人のうち、五人がちゃんと眠れていなかったり、食欲の減退を訴えていました」
    「四分の一が危険信号を出しているとなると、相当のものです」
     伏見があとを引き取り、きちんと結んだネクタイの結び目に手をやる。
    「いま、進めてらっしゃるプランを一時中止するか、部員を入れ替えるというのは難しいですか?」
    「うーん、そうだねぇ……」
     しかめっ面をしている数人の男たちは、大手外資系の投資会社の役員だ。有能な部下をひとり失うことで、どれだけの損失が出るか頭を痛めているのだろう。
     精神科医の免許を持つ加藤と伏見は、週に三日という約束でここの社員たちのカウンセリングを行っていた。
     一日中、刻々と変わる数字とつき合うために、三十代なかばで疲弊してしまい、鬱に陥るどころか、そのまま会社を辞めてしまう者が年々増えているという。
    「三十代から四十代といえば、サラリーマンとしても伸び盛りですから、多少の無理はしてでも……、っく……っ」
     ふいに言葉を途切れさせた伏見に、部長は不思議そうな顔だ。だが、伏見はすぐに、「なんでもありません」と笑顔を取りつくろった。
    「汗をかいているようだが、空調がおかしいかな? 暑いようなら室温を下げさせるが」
    「いえ、ほんとうに気になさらないでください。大丈夫です」
     そうは言ったものの、ほんとうは大丈夫どころではない。
     役員たちにばれないよう、隣の加藤を睨み据えた。それが彼の気に障ったらしい。ぶるっ、と内側で硬いものが振動し、濡れて潤む肉襞を疼かせる感覚がまたやってきて、脂汗が浮かんでくる。
     ――頼むから、ここではこれ以上しないでくれ。
     やめてほしいと必死に目で訴えたけれど、加藤は見て見ぬふりだ。スラックスのポケットの中に隠したスイッチで振動を微弱にセットしたまま、疲れきった社員たちをどうするかお偉方と話し続けた。
    「プランの休止が難しいとしても、このまま続けていればいつかひとりずつ倒れていきます。そうなる前に、いまより少しだけでも仕事のペースを落として、よほど疲れている者にはきちんと事の次第を説明したうえで、一週間程度の休暇を与えればいい。ろくな説明もなく、『休んでいい』と言われるほうがよけいに不安を募らせますからね」
    「まあ、そうだろうな……。どうする、ペースを落としてプランを続けられそうか?」
    「そうですね。いますぐには答えられませんが、加藤さんたちが『疲労している』と判断された者たちはとくに優秀ですから、ここらで少し休ませたほうが、長い目で見た場合得策かもしれませんね」
     役員たちが話し合っているあいだ、加藤と伏見は互いの身体で通じ合っていた。
     冷ややかな感じのする眼鏡越しにこちらの様子を窺う加藤が、おもむろに振動の強度を高めた。
    「……ッ……!」
     無機質な物体にぐねぐねと敏感な襞をこねられ、声を押し殺すのも必死だ。
     ――どうして、加藤はこんなことを……!
     同じ場所を何度も何度も単調な動きで擦られ続けた。それも当然だ。ちいさなローター自体には意思がなく、伏見の窮屈な窄まりのちょうど真ん中あたりでびくびくと震え、加藤の忠実なしもべとして快感のしるしを刻んでいく。
     ――もっと奥まで擦ってほしい。突いてほしい。こんなちいさなものじゃなくて、加藤のものを思いきり感じたいのに。
     じりじりと焦げるような快感に、目元まで潤んでくる。それを役員たちに不審がられないよう、伏見はうつむき、書類を意味もなくめくった。多くの難しい言葉が目に入ってくるが、まるで意味をなさない。感じるのは機械的な快感だけ。熱くもなく、冷たくもない。だが、不用意に動くと中の異物までこりっと動き、いちばん感じるあの部分をかすめていくのがたまらない。
    「……加藤……!」
     小声でなじると、ようやく加藤は振動を弱めてくれた。
    「それでは、具体的な対応についてこれから伏見と話し合いますので、三十分ほどお待ちいただけますか。終わりしだい、ご報告に参ります」
    「わかった。私たちは隣の部屋で打ち合わせをしているから、なにか不明な点があったらいつでも来てくれ」
     びしりと肩のラインが決まった役員たちが足早に出ていったあと、ようやく加藤が本性を剥き出しにして笑いかけてきた。
    「伏見さん、ボタンをはずしてください」
    「……そんな、……こと……」
    「できない、っていうせりふを言えば言うほどつらい目に遭いますよ」
     たったいま、隣室に役員たちが入ったばかりなのに、加藤はここでシャツのボタンをはずし、淫猥な快感を愉しもうとしているのだ。
     そうだろうということは、なかばむりやりローターを挿れられて会議室に入ったときからわかっていた。
    「俺が弄ってなくても、伏見さんの乳首はきっと真っ赤だよ。シャツから透けて見えるぐらいにね。……だって、伏見さんは俺の望んだとおりの淫乱なんだから」
     低く囁く声が悪い夢のようだ。いくらこころを通じ合わせたといっても、こういう行為には慣れていない。それに、加藤の扇情的な言葉にも、いつまで経っても慣れられないだろう。
    「で、で、きな……っ、あ、あ……っ!」
     悲鳴のような喘ぎをあげて、伏見は思わず目の前に立つ男の腰にしがみついてしまった。
     また、内側でローターがぐちゅぐちゅと動き出したのだ。振動するだけでなく、軽くくねったり、ねじれたりするそれが実際の男のものを連想させるようで、「亮……」と涙混じりに見上げた。
    「ボタンをはずして、乳首を自分で弄ってみせてください。俺が欲しいんでしょう?」
    「ん、ん……」
     昂ぶる塊をスラックス越しに感じて、ああ、とため息を漏らしてしまえば、彼の言い付けに従うほかない。
     焦れったく、汗ばむ指でなんとかシャツのボタンをはずし、裸の胸をさらすあいだ、どうしても羞恥心が優ってしまい、加藤から顔をそらした。
     ――自分で見なくてもわかる。俺のここは……身体すべてを亮に変えられてしまった。
    「……やっぱりね。乳首がいやらしく勃起してる。さっきまで仕事してたくせに、なんでこんなに感じまくってるんですか」
     赤くふくれた先端をきゅっとねじられ、伏見は喘ぎながらソファの背にぐったりともたれた。そこへ加藤が腰を押しつけてきて、「しゃぶって」と囁く。
    「俺ね、伏見さんのフェラチオする顔が好きなんですよ。俺のものを最初は苦しそうに頬張ってるのに、そのうち、おいしそうなものを食べてるみたいに舌なめずりまでするんだ」
    「……して、ない、そんなこと――亮がしてほしいって、言うから……」
     口では散々抵抗したが、身体はまるっきり逆のことをしていた。
     上質の生地でつくられたスーツを身につけた加藤は傲然としていて、震える指でジッパーを引き下ろす伏見をおもしろそうな目つきでじっと見つめている。
     その仕草、その視線に少しずつ淫らな炎が宿っていくのを確かめるように。
     ジッパーを下ろしたとたん、ぶるん、と飛び出した肉棒は最初から先端が濡れていて、赤黒くめくれたエラを見ただけで身体中が火照り出す。
     理知的な眼鏡とスーツをまとう男に、淫猥な口淫を要求されている。そう考えただけで、頭の中まで熱くなり、伏見はぼうっとした意識のまま筋の浮き立つ男根にそっと触れた。
    「……そう、最初はそういう感じがいいかな。あなたの中にあるたどたどしさは、いつまで経っても消えないんだろうね」
    「ん、――く……」
     先端の小孔から滲み出す加藤の先走りが、いつもより濃い。亀頭は凶悪なほどにふくれていて、竿も長く太い。これをいまから受け入れるのかと思うと、何度も情を交わした仲だが、やはり身体が強張る。
     それに、ここは取引先のひとつだ。隣室には会社の役員たちがいて、どうすれば社員の士気を高められるか真面目に話し合っているというのに、壁一枚隔てたこっちでは、ローターで苛め抜かれ、フェラチオを強要されている。
     口の中で感じる加藤のそれが上顎を強く擦り、伏見はくぐもった声で喘いだ。口内の上顎を擦られるとくすぐったいだけだったのが、いつの間にかどうしようもなく感じる場所になっていた。
     右手で加藤のものを握り締め、亀頭から根元に向けてちらちらと舌を這わせていく。そのあいだ、俺を見て、と前に言われたことを思いだし、羞恥に顔を赤らめながらも懸命に加藤と視線を絡めた。
    「いやらしい顔してる、伏見さん。俺のがそんなにおいしい?」
    「ん――んっ……ふ……っ」
     ぐっぐっと腰を突き出してくる男のものを口いっぱいに頬張り、答えようにも答えられなかった。けれど、自然ともう片方の手が乳首をつねり、――ああ、こんなのじゃない、加藤が触ってくれるほうがずっと気持ちいいと蕩けた意識で考え、次には自分のスラックスのジッパーを下ろしていた。
     もう、ずっときつくて、役員たちと話しているあいだもどうにかなりそうで、自分で触っただけでもいけそうだ。
     にちゃにちゃとしたしずくを垂らすペニスを剥き出しにして扱き、加藤のものも夢中になって奉仕した。先端からこぼれるとろみは、やっぱり加藤と同じように濃いのだろうか。
     くく、と低く喉奥で笑う男の声が身体中に染み渡る。
    「俺のを舐め回すだけじゃ満足できない? ここまで感じてるなら、ローターでいけるでしょう」
     急に加藤が腰を引いたことで、はちきれそうなほどに勃ちきった男根もずるりと口内から抜け出ていく。
    「いや……いやだ……加藤の、じゃなきゃ……」
     それが欲しくてここまでしているのに、お預けを食らってしまった伏見は懸命にせがんだ。
     意識の片隅では、いけないことをしているとわかっている。取引先の会社でこんなことをしているとばれたら、どれだけの大事になるか。それでも、加藤が欲しいという気持ちを抑えきれず、「なんでも、する、から……」と息を途切れさせた。
    「お願いだから、このままにしないでくれ……もう、ずっとおかしくなりそうなんだ……」
    「だったら、うしろを向いて。自分でローターを抜いてください」
    「加藤……っ」
     そんなことをしたら、淫らに熟れた場所を加藤に見られてしまう。加藤以外のもの――それがたとえばかげたおもちゃでも、中にもぐり込み、自分を狂わせてしまいそうなほどに感じさせていたローターを引き抜いてみせるなんて、到底できるはずがない。
     頭を強く振り、「いやだ、できない」と言ったが、加藤も硬い肉棒で孔の周囲を擦ってくるからたちが悪い。
    「挿れてほしいんでしょう? 奥まで挿れて、擦ってあげられるのは、俺だけですよ」
    「あ、う……ぅ……」
    「簡単なことだから、やってみて。自分の指でかき出せばいいだけですよ」
     それを見られたくないのだ。きっと、自分のそこは縁が赤くふっくらと腫れ、ローターを抜く際に濡れた粘膜まで見せることになってしまう。男を受け入れるつらさと快感に悶えるその場所を、加藤に間近で見られるなんて絶対にいやだ――そう思うのに、ペニスは伏見の意思に反してぐんと勃ちあがり、いまにもぽたぽたとしずくをこぼしてソファを汚しそうだ。
     慌ててジャケットを広げようとするよりも先に、加藤がジャケットをソファに広げてくれた。
    「ほら、俺はこんなにやさしいでしょう? だから、言うことを聞いて」
     やさしくなんかない、こんなのはやさしさじゃない。
     だが、自分でローターを抜かないかぎり、加藤はなにもしてくれないようだ。しまいにはそのまま、衣服を調えて「帰りましょうか」とでも言いかねない。
     いったん火の点いた身体を止めることなんかできないから、伏見はじっとりとした汗をこめかみに感じ、ソファの縁をきつく掴んだ。
    「抜くから、見るな、……見ないでくれ……」
     返ってきたのは笑い声だけだ。
     中ほどまで挿っているローターを抜くにはスラックスを膝まで下ろして腰を突き出し、指で孔を拡げなければいけない。それがどんなにつらく、恥ずかしいものか、加藤にはわかっているのだろうか。
     ――わかっているから、強要するんだ。俺がこんなことをされても感じてしまうと知っているから。
    「ん……」
     熱っぽい吐息とともに、伏見はゆっくりと自分の中へと指を挿れていった。
     こんなことをするのは初めてだ。思っていた以上に中は熱く潤んでいて、自分の指にさえも淫らにまとわりつく。
     ――いつも、こんなふうに加藤に絡みつくのか……。
    「あぁ……っ」
    「ひとりで勝手に感じてないで、早くローターを抜いてくださいよ」
     そう言われても、つるつると滑るローターを指でつまむのは難しい。悔しいのか恥ずかしいのか、もうわからない。涙を浮かべて指を二本挿し込み、ローターの先端をつまんだと思ったら、突然ちいさな機械がぶるっと大きく震え、「――あ」と背筋をのけぞらせた。
    「あ、う、加藤……!」
     せっかく引き抜こうとしたところで、加藤が振動を強めたのだ。
    「だめだ、もう、こんなの……っ、できない……っ」
    「あともう少しですよ。ほら、もう半分出かかってる」
     ぬるぬるに濡れたローターをつまむ伏見の顎を掴み、加藤が視線を合わせたままくちづけてくる。たっぷりとした唾液を交わし、伏見がこくりと喉を鳴らして飲み込むまで許してくれない深いくちづけこそ、加藤の執着の強さをよく表している。
     何度かしくじったあと、ようやく抜けたローターが糸を引いてぽとりと加藤のジャケットに落ちた。その頃にはもう、身体中で熱が暴れ、加藤を求めることしか頭に浮かばない。
     たったいままでローターを咥え込んでいたそこが加藤の指をたやすく飲み込み、もっときつく、もっと激しく絡みついてしまう。
    「ひくひくしてる……智紀のここ、ローターが抜けたままの形でひくついてるよ。真っ赤だ」
    「あ――……亮、りょう……、おねがい、だから……っも、はやく……!」
    「しー、……あまり大きな声を出すと、隣に聞こえますよ。俺たちの信頼を落とす気ですか」
     むちゃなことを強いてくるのは加藤のほうなのに。
     目だけで反論すると、相手も相手で、「へえ」と笑う。
    「そういう芯の強さが俺をいつまでも惹きつけるゆえんですよ。……それじゃ、もっと恥ずかしい思いをさせてやるよ」
     がらりと声音の変わった男が身体をぐるっと返してきて、向かい合わせの形で伏見の両手を自分のネクタイで縛り上げたあと、両足を大きく広げさせた。
    「……智紀のいやらしいあそこに挿れてあげるよ。前は触ってやらない。うしろだけでイくんだ」
    「え……、あ――亮、亮……っ、あぁ……っ!」
     煌々と点いた灯りのもとでシャツを半端に脱がされ、両足首を掴んだ加藤がぬるぅっとねじ込んできた。
    「……ッく……っ!
     加藤のそれはいつも大きくて、いくらほぐされていても張り出した亀頭を飲み込むまでが大変だ。だが、その先はもっとつらくて、気が狂うほどに気持ちいい。ずちゅずちゅと太竿が音を立てて引き抜かれ、伏見も無我夢中で腰を振った。
    「あっ、あぁっ、いい、亮……っもっと、奥まで、いれて……っ」
    「どうして奥まで欲しいんですか。俺の大きさだと、結構つらいと思うけど」
    「だって……」
     声につまる伏見の乳首をやさしく吸いながら、加藤が「それで?」と目顔で訊ねてくる。
    「そのほうが……おまえのことを、もっと強く感じられる、気がするから……」
    「ふぅん……なるほどね」
     精一杯の言葉に、加藤は満足したようだ。
    「じゃ、中に出していい?」
    「ここで……か?」
    「そう。智紀は中で出すとすごくいい顔をするから。大丈夫、汚れるのは俺のジャケットだけ」
     なんとか声をひそめようとしても、危うい雰囲気が隣室に伝わらないとはかぎらない。
     ――ばれるかもしれない。男同士でいやらしいことをしている場面を見られたら、いままで築き上げてきたすべてが終わりだ。
     後ろめたい感覚は、終わりのない快感に繋がっている。
     挿れっぱなしでゆるゆると焦らされ、散々悩み抜いたあげくに、伏見はこくりと頷いた。
    「出して……いい」
    「ほんとうに?」
    「中に、出して……亮のアレを、いっぱい出してほしい」
     一度声に出して言ったら、もう後戻りはできない。ぐりっと腰を巧みにひねって押し挿ってくる男に身体だけではなく、頭の中、こころの中まで犯されそうだ。熱く脈打つ肉棒が出たり挿ったりする光景を目の当たりにし、悶えよがる伏見はさまざまなことを口走った。
    「亮、や、ん、――いやだ、……前も、触って……!」
    「だめだよ。言ったでしょう。今日はうしろだけでいくって。乳首だったら触ってあげるよ」
    「あっ……ぅ……うっ……さわ、って……」
    「どんなふうに? やさしくされたい?」
    「きつく、してほしい……さっきみたいに……ねじって……あ、――……っ!」
     加藤が乳首を噛みまくり、ずるっと男根が抜けそうになるのを伏見は必死に追い求めた。
    「あぁっ、――んっ、っも、いく……っ!」
     ぎりぎりまで両足を広げさせられ、同じ男に尻の奥を犯されて悦ぶ自分の浅ましさを悔いている暇があったら、もっと深く、貪欲に加藤を求めたい。
     望んでもいないのに、うしろだけでいかされてしまう。加藤に抱かれるまでは単なる排泄器官でしかなかったそこが、いまでは指を挿れられただけで蕩けた淫らな肉洞になったのだ。肌も以前より熱く湿り、身体全体で加藤を求めている。
    「いく……っ」
     限界まで昂ぶった孔がきゅうっと締まり、加藤に眉をひそめさせた。だが、それも一瞬だ。素早く彼はジャケットの胸ポケットから取り出した真鍮の輪っかで伏見のペニスのくびれにぎゅっとはめ込んだ。
    「……ッぁ――……!」
     目の前が真っ赤になる。それと同時に、こころから待ち望んでいた熱いものがたっぷりと奥へ放たれた。
     達する寸前の新たな戒めによって、どっと噴きこぼれるはずだった精液がとろとろとしたしずくにしかならず、苦しくてたまらない。
    「あ、あ……っぁ……っは……っ」
    「どうですか? 乳首はクリップでずいぶん感じるようになったけど、智紀のここはまだちゃんと手を入れてなかったからね」
     加藤の声が、どこか遠くから聞こえてくるようだった。
     身体の奥から押し出ようとする精液が、頑丈な輪っかで締められて真っ赤に充血した小孔からだらだらとこぼれ続け、伏見ははあはあと息を切らしながら、延々と続く絶頂に浸っていた。
     その苦しさと快感は、いままで知らなかったものだ。
     ――こんな快感があるなんて。苦しいはずなのに、痛いはずなのに、どうして感じてしまうんだ?
    「感じた? やっぱりいいね、智紀は。ここぞというときの顔がほんとうにいい」
     初めての快感に溺れる伏見に、加藤が笑いかけてくる。
     まだ息が整わない伏見の衣服を直し、窓を開けて空気を入れ換えたあと、「それじゃ、簡単に打ち合わせして、隣室の面々に報告したら帰りましょうか」と加藤が言う。
    「……わかった。でも……」
     なにが言いたいか、加藤にはすべてお見通しのようだ。
     快感の名残でふらつく伏見を支え、「大丈夫」と、あの悪辣で甘い声で囁く。
     精神科医として、有能なキャリアカウンセラーとして社会的信用を得る反面、伏見ひとりを裸にして徹底的にいたぶることを望む男の声には、ほんとうの魔力がひそんでいるのだ。
    「うちに帰ったら、輪っかをはずしてあげるよ。智紀が悦ぶことをもっとしてやる。その前に、どこか途中で――そうだな、人目のあるところで智紀を感じさせようか。輪っかをはめたままでね」
    「……加藤……」
     胸が高鳴るのは、不安のせいか。期待のせいだろうか。
     知らずと胸を押さえ、伏見は加藤と肩を並べて歩き出した。ずきずきと痛むあの場所を意識すまいとしても、難しい。
     きつく締め付けてくる輪の中に、自分という存在までもが入り込んでしまった気がする。
     それなら、それでもいい。
     行き着くところまで行けばいいという言葉は、加藤には当てはまらない。いまはただ望むままに――感じるままに。
     加藤亮という輪の中に、終わりはないと知っているのだから、溺れてしまえばいい。 


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