3アタック(「3シェイク」番外編 2008)

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     いざホン読みの時期に入ると、それまで無作法、無遠慮、ついでに無気力だった幸村京はひとが変わったように役作りに没頭した。
     ――いい兆候じゃないか。
     彼の変わりようを目の当たりにして、マネージャーである岡崎遼一は薄く笑いながら煙草に火を点ける。
     少し前まで、幸村は岡崎の所属する芸能事務所「ロスタ・プロダクション」内で、『骨のある新人のひとり』でしかなかったが、いまは違う。業界内外でも名を知られる、気鋭の映画監督、佐野雅仁に見出され、一躍、主役としてスクリーンデビューを飾ることになったのだ。
     撮りに入るのは冬以降。『霧の中に』と題した作品で、初めての主役を務める幸村にとって、佐野の生み出すキャラクターや世界観を飲み込むにはかなりの時間を要するかもしれないと案じていたが、大学のテキストを放り出す勢いで脚本に顔を突っ込んでいる姿を見て、一安心した。
     今日も、幸村は大学帰りに事務所に寄り、岡崎の部屋で脚本をずっと読んでいる。彼が部屋にいつくようになったのは、昨日今日に始まったことではない。隙あらば岡崎の身体を食い尽くそうとする年若の男は、一回りも上の佐野に対して並々ならぬ敵愾心を持っており、つねにこうして犬のようにそばについて回っているのだ。
     だが、岡崎はけっして隙を見せなかったし、幸村を煽るような媚態を示したことは一度もない。
     ――俺の身体が彼らのいい餌になるなら、与えるチャンスを見極めないと、アンバランスなこの関係はすぐにも壊れる。
     幸村と佐野。異なった魅力に、異なった容姿を持つふたりから激しく求められるようになって、岡崎はますます物事に冷静に取り組むようになった。
     三人で絡み合うのは、二週間に一度ぐらいの頻度だ。一度それが始まると、長時間に及んで幸村と佐野に交互に徹底的にむさぼられ、翌日は立ち上がれないほどに体力を使い果たす。
     もちろん、若い幸村は十四日間じっとひたすら待つようなタイプではない。だが、そうそう簡単に寝てやったら、いくら自分に固執する幸村とて興味を失うだろう。その点、佐野も似ている。二十八歳の岡崎よりも六つ上で、独特の思考回路を持った男は恐ろしくタフで、がむしゃらに快感を得る幸村とはまた違い、ねじくれたセックスを好む。
     ――そう、かなりねじくれたやり方だ。このあいだだって、俺が幸村に奉仕している場面を小型ビデオで撮っているだけで、ひどく愉しそうだった。
     元モデルだけあって、容姿が洗練されていることは岡崎自身、よく知っている。だが、この身体を武器にしようとは思っていなかった。いわゆる「枕営業」は、長続きしない。なりふり構わず身体を差し出し、一時はおいしい仕事にありつけても、大きくブレイクできるわけではなく、すぐに消えていく同業者たちを多く見てきたためか、セックスを駆け引きの材料にはしないと固く決めていたのだ。
     だが、その誓いを幸村と佐野に破られた。代わる代わるに、潔癖さと羞恥を失わないこの身体をしゃぶり尽くすことを望む男たちに、岡崎はとまどい、怒り、だが最後にはどうにもならない快感に追いやられて涙をこぼした。
     とはいえ、そうしたことはあくまでもベッドの中だけで、二週間にいっぺんの割合でしか行われない。表向き、自分というのは裏方で、幸村という鮮度の高い商品をどう売り出していくかということに精力を傾けている。
     その姿勢は嘘偽りなく真摯で、幸村が役作りに没頭するならばどんな要求でも受け入れたし、こんなふうに自分のオフィスで脚本を読むことも許している。
     ぱらりとページをめくる幸村はソファに深く腰掛け、たまに左手に持った赤ペンで線を入れていく。佐野の書いた脚本を岡崎も読んでいるが、主役を含め、どのキャラクターもせりふ数はさほど多くない。だが、そのぶん深い意味を持ったせりふばかりで、声のトーンや表情、仕草を突き詰めないと、浅い演技になってしまう。
     一読しただけで、相当難度の高い演技力が求められていることは、岡崎にもよくわかった。せりふが多ければ多いで記憶するのも大変だが、かぎられたせりふだけで勝負しなければいけない「キョウ」という主人公は、日頃から生意気な口をたたいてばかりの幸村を黙らせるほどの圧倒的な存在感を持っている。
     ありふれた日常から、ひとり、またひとりと見知ったひとたちが消えていき、最後に取り残された幸村演じるところの「キョウ」は錯乱一歩手前まで追い詰められる。狂気と正気の綱渡りにどう挑めばいいのか、幸村も連日、頭を悩ませているのだろう。かすかにその口元が動き、せりふを言っているらしい。
     それからふいに目を上げ、妙に思いつめたような顔で「腹、減った」と脚本を放り出したので、笑ってしまった。
     午後の三時過ぎにオフィスに来て二時間以上、ほとんどなにも話さず脚本と向き合っていたのだから、腹も減るはずだ。
    「なにか食いに行くか。なにがいい?」
    「んー、外食は飽きた。なぁ、岡崎さん、なんかつくれねえ?」
    「俺が?」
     驚いて聞き返すと、幸村はアッシュブロンドの短い髪を軽く撫で上げながら、「簡単なモノでいいからさ」と言う。
    「あんたの手料理、食いたい。お茶漬けでもいいしさ」
     奔放な振る舞いを当たり前とする男にしては可愛らしすぎる言葉に、失笑してしまう。
     セックスの次は飯炊きか、と思うと、さすがにため息のひとつもつきたくなるが、幸村の複雑な育ち方を考えると、手料理を食べたい、という言葉もそれなりの重みを持つ。
     ひとり暮らしの岡崎は芸能マネージャーという仕事柄、外食が多いが、たまの休みにはごくごく簡単な料理をすることがある。オムレツだったり、野菜炒めだったり、ものの数分でできあがるものばかりだが、外食ばかり続けていると、シンプルなものが食べたくなるのだ。幸村も、きっとそうなのだろう。
     夏の盛りを迎えた八月、さっぱりしたものが食べたい。
    「素麺でいいか。冷や奴もつけてやる」
    「うん、それでいい」
     嬉しそうに立ち上がり、帰り支度を調えた幸村が扉を開く前に言った。
    「もちろん、あんたの部屋で食わせてくれるんだよな?」
     その言葉に、一瞬だけ扉を開くのをためらった。当然、幸村のマンションに行くと思っていたからだ。
     彼はもとより、佐野も招き入れたことのない自分だけの部屋。2DKのマンションは、四六時中、担当モデルに気を配り、関係者たちともうまくやっていけるように神経を張りめぐらせている一日の疲れを癒す部屋、唯一、誰にも気兼ねすることなくくつろげる空間だ。
     そこに、幸村を入らせてもいいのかどうか、迷ってしまう。
     身体の最奥を暴かれるのと同じく、プライベートな場所を知られることで、またひとつ、弱みを握られる気がすると言ったら、穿ちすぎだろうか。
     ちらりと幸村を見ると、楽しげに笑う目とぶつかった。
     ――べつに、部屋のどこを見られても恥ずかしいわけじゃない。先日、風呂もトイレも掃除したばかりだし、こいつには食事をさせてやるだけだ。俺はただ、いつもどおりの態度でいればいい。隙をつくらなければいい話だ。
     つかの間のとまどいを上手に隠し、岡崎は平静を装って扉を開いた。
    「おまえのところほどいいマンションじゃないが、来たいなら来い」
     幸村がくくっと笑いながらあとを追ってきた。

     

     


    「へえ、岡崎さんってこういう部屋に住んでるんだ」
     マンションに入るなり、興味津々な顔つきで幸村が部屋のあちこちに首を突っ込んでいる。
    「うろちょろするな。そこのソファにでも座ってろ」
     寝室をのぞき込んでいる幸村の襟首を力任せに引っ張り、リビングのソファに突き飛ばした。幸村は気を悪くしたふうでもなく、ひたすら楽しげだ。
    「想像したとおり、あんたらしい部屋だね」
    「どういう意味だ」
    「他の野郎の匂いがしねえ。あいつも、まだここには来たことがねえんだろ?」
     幸村の言う『あいつ』というのが佐野を指していることはすぐにもわかったが、「まあな」とさりげなく聞き流した。ここで強く反応しても、弱く反応してもだめだ。まだ年若の幸村は、ちょっとしたことで感情を大きく揺らす。
     ――そのネタが、俺自身というところが問題だが。
     表向き、澄ました顔で素麺を茹でるあいだ、冷え切った缶ビールで乾杯した。
    「お疲れ。ここ最近は真面目に仕事してくれていて助かる」
    「いつまで続くかわかんねえぜ? あんたがもし、俺の目を盗んで佐野と会ってたら、その場で映画の主役なんか降りてやる」
     強気な発言に、カウンターにもたれた岡崎は微笑んだ。
     自分の目に狂いはない。彼らに身体を奪われても、快感の行く先を握られているとしても、鮮度のいい素材を見抜き、信じる目までもが曇ったわけではない。
    「おまえはあの役を降りない。キョウを絶対にやり遂げる」
    「……ずいぶん自信たっぷりに言うじゃん。自分のことでもねえのによ」
     見透かした言葉に、幸村がむっとした顔を向けてくる。
     確かに幸村の言うとおり、現実において役を務めるのは自分自身ではないが、彼の胸の裡のことはまるで自分のことのようにわかる。
     自分がモデルを務めていた頃、体裁は整っていたと思うが、幸村のような荒削りな魅力は持っていなかった。そのぶん、他人の頭のてっぺんから足の爪先までチェックし、どこをどう弄ればもっとよくなるか、という目には恵まれていた。そのおかげでモデルを引退したいま、幸村をマネージメントする立場にあるのだ。
     ――おまえは、一度火が点いたら止まらないタイプだ。ハードルが高ければ高いほどやる気を出す。無敵になれる。それだけの才能を持っている。
     だが、正直に言えば幸村は思わぬ方向に増長し、手に負えなくなる場面も出てくるだろう。だから上手に微笑で隠し、さっと茹でた素麺を氷水にさらして、ついでに冷や奴もつけて簡単な夕食を整えてやった。
    「さっさと食べろ」
     素っ気ない言い方だが、空腹には勝てなかったのか、幸村はにやりと笑い、黙って食べ始めた。
     しばらくそうしてふたりで黙々と食べ、腹が一杯になったところで幸村が立ち上がり、「もう一本、ビールもらう」と勝手に冷蔵庫を開ける。
    「へぇ、ほとんどなにも入ってないじゃん。岡崎さん、いつも食事はどうしてるんだよ」
    「外ですませることが多い。おまえもわかってるだろ。マネージャーは待ちの時間が多いんだ」
    「俺以外にも面倒を見てるモデルやタレントがいるんだよな。そいつらと俺と、比べてみたことはあるか?」
     好戦的とも言える口調で、缶ビールを片手に提げた幸村が背後に回るのを感じていたが、ソファに座った岡崎は微動だにせず、「いや」と言って煙草に火を点けた。
    「どのタレントにも、平等に接しているつもりだ」
    「言っとくけどよ。俺は、あんたが抱えてるどのタレントよりも金のたまごだぜ」
    「自分で言うか」
     大見得を切った男に思わず吹き出すと、左後ろから鋭いまなざしがのぞき込んでくる。そのまま顎を持ち上げられ、熱っぽい吐息がかかる距離で幸村が囁いた。
    「いい加減、俺だけのモノになれよ。あんたが他の奴に時間を割いてるって考えただけで、腹が立つんだよ」
    「まだ佐野作品の撮りにも入ってないのに、口だけはでかいな。おまえこそいい加減にしろ」
     顎を掴む手を一度は振り払ったが、幸村はなおもしつこく、耳たぶを咬んでくる。そこが岡崎の弱いところだと知っているから、遠慮もなにもあったものではない。ちりっと焼け付くような痛みを覚えて身体を離そうとしたが、すかさず前に回り込んだ幸村がしゃがみ、両足を大きく割って入ってくる。
    「幸村!」
    「あんたが誰のモノか、直接教えてやる」
     獰猛な情欲を孕んだ声に身を翻すこともできず、大きな体躯と熱に押されるようにして岡崎は顔を強張らせながらずり上がった。食欲を満たした次は性欲。幸村の単純な思考パターンがすっかり読めるようになったいまでも、毎回、ぎらりとした犬歯を見ると屈辱と羞恥――それから、抑えきれない興奮がこみ上げてくる。だが、自分から求めようなどとはちらりも思わない。幸村が与えてくる荒っぽい快感に従順になるつもりは、まるでなかった。
     ――そんなことをすれば、こいつはすぐに俺に飽きる。他に目を移す。あのひとも、そうだ。
     幸村の短い髪を掴んで懸命に押し返そうとしたが、鍛え抜いた身体はびくともしない。やや細めの岡崎に覆い被さり、スラックスのジッパーの上からゆるく円を描くように擦ってきた。
    「前にあんたとしてから、もう一週間以上経ってんだぜ。溜まってんだろ?」
    「ばか、……やめろ……!」
     形ばかりの抵抗をすると、幸村の手つきがよけいにきわどいものになる。わざとかちゃかちゃと音を立ててベルトを引き抜き、ジッパーを下ろして半勃ちになっている岡崎のそこを下着越しにぐっと握り込んできた。
    「……ッ!」
     苦痛が混ざる鋭い快感に眉根をぎゅっとひそめたのが気に入ったらしい。下着の縁からはみ出させた亀頭を親指でくりくりと弄り回す幸村が、鼻先で剣呑とした笑いを見せる。
    「イイ顔してんじゃん。あんた、ちょっとばかり痛くされたほうが感じるんだろ?」
    「そんな、――わけ……ない、……っ」
     だが、先端の割れ目をくちくちと弄られているうちに、そこからたまらないほどのねっとりした熱い潤みがこぼれ出してしまう。
     多くの経験を積み、冷ややかな目を持つ佐野とはまったく違う幸村の愛撫はなかば暴力的で、その気になっていないはずの岡崎の身体をいいようにもてあそぶ。
     言葉を交わすよりも、身体を深く繋げることが、彼にとっての愛情表現だとわかっていても、岡崎は屈することができなかった。
     佐野と、幸村と、そして自分。危うい均衡を保ちながら続いている関係を壊したくないと、こころのどこかでは認めている。幸村はあくまでも一対一の関係を望んでいるが、そこに佐野という不確定要素が加わることで、ますます執心を極め、躍起になって自分を求めてくるのだ。それこそ、動物的といってもいいほどの勢いで。
     ジッパーを完全に下ろされ、ぶるっと跳ね出るペニスを乱暴に扱かれて、涙が滲んだ。
    「っつ……ぅ……」
     我慢できずに幸村の広い肩にしがみつくと、満足そうな顔の男がくちびるをきつく吸い取ってくる。
    「……っン……ぁ……」
     生温かい唾液をたっぷりと流し込まれ、飲みきれないしずくが口の端からこぼれ落ちていく。舌をもつれ合わせて搦め取る仕草は傲慢だが、どこかまだ若々しい。言葉にはできない感情を持て余し、荒々しい愛撫をぶつけてくるしかない男に負けて、息苦しさを感じつつ幸村の髪を撫でてやると、痛いぐらいに性器を掴んでいた手の力もようやくゆるくなり、敏感なくびれ部分を意地悪くこね回してくる。
     やっと、好みの快感がやってきて、掠れ声にまぎれもない情欲が混じってしまうのが止められない。
    「あ、……あぁ……」
    「岡崎さん……、俺のモノしゃぶって」
     喘ぎ声に挑発された幸村が手を掴んできて、猛ったそこをジーンズ越しに触らせられた。
     太く、長い幸村の男根は固いジーンズ生地をきつく押し上げ、ジッパーを下ろすのも一苦労だ。自分のものより一回りも大きな性器を目の前に突き出され、大きな亀頭が「咥えろ」とばかりに閉じたくちびるをぬるぬると犯していく。濃い匂いと、垂れ落ちるしずくのねばつきで、幸村もまた、前に抱き合って以来ずっと我慢していたのだと知った。
    「ほら、口、開けろよ」
     髪を掴まれ、岡崎は仕方なくくちびるをかすかに開いた。そのとたん、太いものが一気に奥深くまで押し込まれ、吐き気を催すと同時に咳き込んでしまいそうだ。
    「やっぱ、あんた……イイよ。俺のチンポ咥えてるときがいちばんイイ顔してる」
    「……っ……ぅ……ッ」
     じゅぽっと音を立てて抜き、また押し込んでくる幸村は生え際にうっすらとした汗を浮かべ、年上のマネージャーの口淫を思うさま楽しんでいるようだった。上向きの亀頭がぐっぐっと口蓋を擦って濃い味を舌に残していくと同時に、得も言われぬ疼きを岡崎にもたらす。
     いつからだろう。フェラチオを強要されて、感じるようになったのは。上顎のやわらかな部分を存分に擦ってくれる男ののペニスを口いっぱいに頬張っているうちに、じわじわとした快感が全身を締め上げていくような感覚に、頭の中が真っ白になっていく。
    「ん……っ」
     ぐちゅ、ぬちゅりと舌を遣って幸村のそれを舐った。男のものを亀頭を舌でくるみ込み、竿をちらちらと舐め回すようになったのは、断じて自分の意思からではない。
     ――脅されたからだ。彼らに身体を差し出さないと、仕事がうまく進まないからだ。
     甘く蕩けていく意識の片隅でそんなことを考えてみるが、身体が熱くなっていくことについては岡崎自身、反論できない。
     自分からは絶対に求めないが、「彼ら」が好きなとき、好きなやり方で求めてくることにどうしても止めようがなかった。いつだって、幸村や佐野はこっちの意表を突いてくるから、どう構えても、最後には苦しさと隣り合わせの快感に追い詰められ、喘いでしまう。
    「――ん……ふ……っ」
     精一杯の奉仕を続ける岡崎の髪をくしゃくしゃとかき回す幸村は楽しげに笑い、シャツの棟ポケットに入れていた携帯電話を取り出す。
     カシャリとちいさく響く音にぎょっとして顔を離すと、「やめるなよ」と再び強引に口に含まされた。
    「ん、ん……っ!」
    「あんたがフェラしてるとこ、佐野にも見せてやろうと思ってさ。あいつ、まだ仕事中だろうしな。あんたと俺がこうしてること知ったら、機嫌悪くするだろうな」
     笑いながら腰を突き出してくる男のものに、思いきり歯を立ててやりたくなる。ときおり、彼らを本気で殺してやりたくなる。明確すぎる殺意を抑えるのは、とてもつらい。それまで知らなかったねじれた快感を叩き込んできた彼らを一息に始末できたら、どんなにすっきりすることだろう。
     ――でも、そんなことをすれば、こんなふうに身体を熱くさせることも二度とない。
     朦朧としながらフェラチオを続けさせられた。すぐに達してくれると思ったが、幸村も自分の中にある衝動を操る術を覚えたらしい。昂ぶった男根を岡崎の顔に押しつけたり、先端のところだけを含ませたりして快楽の時間を引き延ばしている。そうこうしているうちに、岡崎のほうが我慢できなくなってきた。勃ちっぱなしの性器からとろっとしたしずくがずっとこぼれ続けているのに、少しも触ってもらえない。シャツに触れて擦れる胸の尖りが痛い。
     楽しげに目を光らせている幸村は、なにかを待っているようだった。耳をそばだて、通常の人間には聞こえない音を聞き分ける獣のようだった。
     その目がひときわ深い輝きを見せたときだった。部屋のチャイムが鳴り、びくりと身体を震わせる岡崎の手首を素早くネクタイ縛り上げた幸村が、ジーンズを引っ張り上げながら階下の自動扉のロックを解除する。少ししてから、誰かが入ってきた。
     佐野だ。乱れた姿の岡崎を見るなり、口角をゆるく吊り上げた。
    「な……っ!」
     慌てて下肢を隠そうとしたが、すんでで幸村に手を掴まれ、佐野に顎を押し上げられた。
    「相変わらず、そそる顔をするね、きみは。ついさっきまで幸村くんのものをおしゃぶりしてたんだよね?」
     つうっと濡れたくちびるに指を這わせてくる佐野はスーツ姿で、ネクタイの結び目もしっかり整っている。その隣で、幸村が昂ぶりの収まらない肉棒を露出させ、岡崎の頭を掴んできた。
    「写真で見るより、やっぱりナマで見たほうがイイだろ?」
    「そりゃもちろん。岡崎くんのよがり狂う顔に、取材を途中で切り上げてきたんだ。ほら」
     慣れた仕草で佐野はみずからベルトをゆるめ、驚愕する岡崎の前でスラックスのジッパーを下ろし、そそり立つ男根を剥き出しにする。赤黒く怒張したものはすでに濡れていた。
     彼らを心底恐れるのは、こんなときだ。煌々と灯りが点いた部屋で男同士でのセックスを当たり前のように捉え、しかも三人で交わることを愉しむ表情は、岡崎には一生得られないものだ。
    「我慢できなくてね、車の中でずっと弄ってたんだよ」
    「あんたもいい歳してエロいよなぁ……。岡崎さんを犯すことしか頭にねえんだろ」
    「きみこそ、そうだろう。写真をわざわざ僕に送りつけて挑発するなんて百年早いんだよ。ねえ、岡崎くん。幸村くんはきみの感じやすい乳首を弄ってくれた? まだだろう。彼はまだ若いからね、自分の欲望を満たすので精一杯だ」
     不敵に笑う佐野の手でシャツをむりやり剥がされた。勢いでボタンのひとつが弾け飛んだあたり、笑っている佐野の興奮もピークに達しているらしい。骨張った手が首筋を這い、鎖骨をするっと撫でたあと、ツキツキと疼く乳首をつまんできたことで、岡崎は思わず背をのけぞらせた。
    「……っぁ……っ!」
     佐野の長い指で挟まれた乳首がくりくりと揉み転がされるたびに、ぞくっと背筋を鋭い快感が突き抜ける。彼独特の指遣いを覚えている乳首はすぐに赤く腫れぼったくなり、ただ揉まれるよりも、もっと強い快感を欲していた。
     ――だけど、絶対に俺は屈しない。これ以上おかしくなりたくない。
     ぐっと腹の底に力を込めて佐野を睨み返すと、軽い笑い声があがった。
    「そういう顔が僕たちをどこまでも煽るって、きみもほんとうはわかってるんだろう」
    「わか……らな……っ」
     答え終わる前に乳首をぎりっと噛み潰され、語尾が悲鳴混じりになった。ふっくらと熟した実を噛み潰すような佐野の頑丈な歯に岡崎は悶え狂い、全身に汗を滲ませた。
    「あ――……ぅ、……あぁ……っ!」
     新鮮な酸素を求めて大きく開けたくちびるに、幸村が再び肉棒を押し込んでくる。ぐちゅっと唾液のしたたる音が鼓膜に響き、欠片ばかり残っていた理性までも叩き壊してしまうようだった。
     ――それでも、絶対に――なにがあっても、俺からは求めない。
     屈しないことだけが、彼らと張り合う唯一の武器だ。リビングで淫猥な格好を取らされ、性器を弄られ、胸を舐め回されても、こころだけは譲らない。
     強固な意志が通じたかどうか知らないが、佐野と幸村、ふたりがかりで寝室のベッドに運ばれ、そこですべてを脱がされた。暗闇の中、熱い舌と吐息が誰のものかもわからずに、窮屈に締まる窄まりを濡れた指でぬくぬくと拡げられ、岡崎はくちびるをきつく噛み締めた。
     誰かの手と手、足と足が複雑に絡み合う闇の中なら、涙をこぼすことぐらい、感じすぎて達することぐらい自分に許してやりたい。
    「……っも……っイく……っ」
     ペニスを執拗に舐られながら窄まりを指で犯され、岡崎は誰かの手を必死に掴んでせがんだ。
    「イ、きたい……」
    「まだ、だめだ。あんたを後ろでイける身体にするのが、俺たちの役目なんだ」
     くくっと笑う声ともに、ずくんと身体を真っ二つに裂くような肉棒が後ろから深く押し挿ってきた。
    「あ――……ッ!」
    「……いいね、いつも以上にひくひくしてる。岡崎くんの中は熱くてたまらないよ。男殺しの身体になってきてるよ」
    「あ、あっ、あぁっ」
     思いきり揺さぶられ、長い肉棒が最奥を突いてくることで、岡崎は頭を強く振って声をあげた。硬くみっしりとした感触が潤んでたまらない肉襞をずりゅっと擦り、長い時間をかけて意地悪く抜け出ていく。
    「いや、だ……っ」
     狂ったように声を振り絞ると、次の感触がやってくる。熱く、太い男根が頭の中まで一気に犯し抜くように貫いてきて、岡崎の声が嗄れても構わずにずくずくと突き上げてきた。
    「……はっ……ぁ……っは……ッ」
     四つん這いの格好で、膝がシーツに擦れて痛い。けれど、それすらも快感に変わる時間がすぐそこまで来ている。身体の位置を変えられ、誰かのものを下から挿れられて突き動かされた。騎乗位は、彼らがいちばん好む体位だ。なにもかもが無防備になってしまう岡崎の身体を弄り回し、くちびるやペニス、アナルにまで指や性器を押し込み、その熱と感触を愉しむのだ。
     ひくっとしなる性器を根元から擦りあげられ、窄まりも男のものでみっちりと埋め尽くされている。
     身体の真ん中が、どうしようもなく熱い。蠢いている。搦み付いている。男に犯されて悦ぶ本能が、もっと強烈で、もっと赤裸々な快感を欲していた。
    「……ぁ……あぁ……っ!」
     びゅるっと白濁が飛び出したのとほぼ同時に、最奥をしつこく突いていた男根もぐっとふくらみ、大量の精液をそそぎ込んでくる。
     我慢に我慢を重ねただけあって、どくどくと脈打つ性器を触られるたびに全身がわなないた。
    「も……う……だめ、だ……」
     倒れ込みそうな身体を、誰かが支えてくれた。腕の太さからして、きっと幸村だろう。甘く耳たぶを噛んできて、「冗談じゃねえよ」と囁く声が悪い夢のようだ。
    「まだまだこれからだろ。今度は俺があんたの中にたっぷりザーメンを出してやる……」
     痺れる腰をぎっちりと掴まれ、さっきよりも逞しい肉棒がねじ込まれて、岡崎は声を失った。
    「この前は幸村くんが先に挿れただろう。最初の奴の精液で熱くぬかるんでるきみの中の気持ちよさを、幸村くんにも味わわせてあげないと。ね? きみがどれだけ男を悦ばせる身体か、わかってるかな? 今夜はもっともっときみをおかしくしてあげよう。時間をかけて念入りに――僕たちの好みの身体に仕立ててあげよう」
     顎を持ち上げられ、くちびるがかすかに触れた。それから、そっとくちびるが触れた。まるで、なにかを誓うかのようなキスは、乱れた吐息で支配されたこの場にはふさわしくないやさしさに満ちている。
     その笑い声が誰のものであろうとも、断じて喜んで答えてはならない。
     若く、野性味の強い幸村にとって、洗練され才気走った佐野はまたとない好敵手なのだろう。
     ――そして、俺は? 俺はこれからどうなる?
     ずぶっ、と深く穿たれ、乳首をきつく揉み潰される岡崎は熱く湿っていく闇の中で、否定も肯定とも取れない喘ぎを漏らした。涙も汗も、彼らのためにあるような気がした。
     これから先、こんな場面は何度もあるだろう。何度も羞恥心と屈辱に苛まれ、涙を滲ませることになるのだろう。
     ――いつまでも、俺は彼らに犯され続けるる。
     それでも、たったひとつの事実がおのれを強く支えてくれる。その芯の強さが幸村や佐野を永遠に惹きつけてやまないことを知らずに、岡崎は無意識のうちに淫らにくねる身体を恥じ、感じ、彼らの感触を貪欲に受け入れた。
     まだだ。
     まだ、いまは狂うときじゃない。


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